エッセイ集「象を洗う」佐藤正午 2001岩波書店
1989~2001
象を洗うとは、あとがきでは(著者と編集者の2人だけの間の)業界用語だそうだ。
「象を洗う(P252)」の中では『アリナミンを飲めば象が洗える』というテレビのCMを見た著者が、その気になってアリナミンを夜食の後に飲んで小説を書いたことから、小説を象に見立て小説を書くことを「象を洗う」と表現したのだった。
まあ、そういうわけで、この本は象を洗い続けている著者のその姿を記したものであり、作品の宣伝も少なからず入っていたりする。
少なからず入っているといえば、独り者、結婚していないということも繰り返し呟かれる。
「借金(P13)」のなかでは、「他の仕事は持たないんですか」と小説家だけで生計を立てる大変さを回りから諭され、編集者からは「金持ちをつかまえろ」だの「稼ぎがあるけど忙しい看護婦なんかなら小説家の邪魔にならない」などと勧められる。
そして、「あなたと僕は違う(P175)」で結婚しない言い訳になる。さすがにそこは小説家なので、『他のみんな』という正体不明のものを否定して『のびのび生きる』という選択肢を示すことで見事に煙に巻いた。