「童貞物語」佐藤正午 1987集英社
『青春と読書』1986年4月号~1987年3月号
まったく別の話なのだが、「ビコーズ」の登場人物とかぶる。読者(ファン)サービスだな。
主人公は独り者であり、父親は早くに亡くなるものである。
青年たちには本当に打ち込むものはなく、それぞれに流されていく。
夢中になるのは異性のこと。重要なのはそれだけ。
でも、それは色々とあって、うまくいくものでもない。
今の自分を肯定することも否定することもできる。
それは見方と価値観の違いだけ。
それを自分で選んだかどうかは本当は関係ない。どちらにしろ流されているだけなのだから。
時代が違えば、なんてことも思う。
今のような情報時代ならば、仕事をしながら勉強もできるし資格も取れる。人生の方向転換の可能性も探れる。能力と気力と覚悟があれば。しかし、この作品が書かれたバブルのころはまだ携帯電話さえ普及しておらず、目の前にある選択肢から選ぶしかなかった。短期的には情報があっても選ぶものは同じなのだろうけれど。そして、覚悟のできる人間は少ないから、今も昔もほとんど人々の選択は変わらないのだろうな。
流されたまま、過去を思い、現在を見ているつもりで見えていない。
良いとか悪いとかいう問題ではない。ただの生き方、それはそう変わるものではない。
覚悟のない、嫁や子供のいない男はいくつになっても精神的に童貞なのかもしれない。