ワハハのチケット

すっかり秋めいて

部屋ではエアコンなしで過ごしている

窓を開け放すとホントに心地良い風が入って来る

こんな休日は何時間でも眠っていられる


昨日は店がヒマで定時に上がれるかと思っていたが

プロレスおたくのサチコの来店で

５時まで営業した

彼女は店のすぐそばに住んでいるのだが

早朝に自宅に戻るところを

近所の人に見られたくなくて５時まで当店で粘るのだ

４時も５時もあまり変わらないと思うのだけど

実家で暮らす５０前の未婚の女は

何かと余計な詮索をされるのだろう


いつもなら金曜に遊びに来るサチコだが

珍しく土曜日に店を訪れた

「ヒデミさんに券を持って来たの」

プロレスと共にワハハ本舗もこよなく愛す彼女は

“梅ちゃんのペルセウスの誘惑”の東京公演のチケットを

ヒデミさんに届けに来たのだ

ご存じない方の為に説明すると

梅ちゃんとはワハハ所属の人気者で

ド派手な女装で鼻に詰めたピーナツを

客席に向かって飛ばすのがお約束の怪芸人だ


そう言えば以前ヒデミさんがサチコに

「ワハハに凄く興味あるから今度公演がある時は誘って」と

社交辞令っぽく話してたっけ

サチコはそれを覚えていて券を持って来てくれたのだ

ところがヒデミさんは

「ごめんなさい、明日は用があるのよ」

と断わってしまったのだ

しかもバツが悪いのかそのままキャッチに出てしまった


ヒデミさんの悪い癖だ

酒の席で何でも気軽に口約束する

相手はまともに受け取って

後日、忘れた頃に約束を実行に移そうとする

気紛れなヒデミさんは

酔っている時ならそのままＯＫするが

シラフだと必ず断わってしまうのだ

或いは当日になってドタキャン

全く始末に悪いのだ


サチコは余ったチケットを私にどうかと聞く

「ワハハは嫌いじゃないけど

　日曜日はゆっくりと眠って居たいの」

「そっか～
　
　いきなりじゃやっぱダメだよね」

ゴメンネ～

その代わり客はアンタ一人だけど延長するわ

バイトのトシとヒデミさんを先に返して

サチコと語り明かしたのであった