一気体質のトシ

ゴマメさんが辞めて代わりに入ったノンケのトシ

ほぼ毎日店に出てくれるのでとても助かっている

昼もコンビニで働いているので

週に３～４日のペースでと思っていたら

頑張って連日出勤している

それに以前ホストの経験があるだけに

とても盛り上げ上手だ


昨夜もカオリが女友達とやって来た

当店の近所に住んでいた彼女

最近引っ越して「当分来られないかも」なんて言っていたが

「イケメンがキャストに加わったわよ」とメールしたら

早速遊びに来たのだ

来る前に何度も電話で「ホントにイケメンなの？」

としつこい

当店では若い男はすべてイケメンって事になっている

「ホントよ、掃き溜めに鶴ってこう言う事よ」

気紛れなカオリの事だ

当店に来る間に何処かの居酒屋のキャッチにさえも

「イケメン居るの～？」なんて言いながらついて行きそうだ


既に店内にはアッ子ちゃんが

旦那と行きつけの店のママを伴って来店している

元気の良いトシはアッ子ちゃんから見れば

可愛い弟の様なイメージなのだろう

どう言ういきさつでオカマバーで働いているのか

寝掘り葉堀り訊いている

アッ子ちゃんも既に何処かの店で

かなり強い酒を飲んで来ているので

同じ事を何度も繰り返す

「それでさ～、何でオカマバーなの？」


其処へドアが開き、酔っ払ったカオリが乱入

女友達もかなりキツめの感じだ

早速トシをテーブルに呼び寄せる

この手の女性客はホストでは定番だろう

トシも手馴れた感じでお相手している

いきなり一気コールが店内に響き渡る

あ～あ又やってる

昼間の仕事に影響しないように

無茶な一気は止めるように言っているのだが

勢いが付いて止まらなくなったようだ

その様子をこちらのテーブルで見ているアッ子ちゃんも心配顔だ


カオリがトシに一気を命じてから数分後

入れたばかりのボトルが空いた

「丸ごと一気するならモエ入れるわよ！」

当店ではモエシャンやドンペリは滅多に出ないので

仕入れていない

万一の時は近所のショットバーに借りる手もあるが

トシが一気してぶっ倒れたらシャレにならない

カオリのテーブルに行って止める

此処はホストじゃないんだから

そんな無茶な飲み方をしてもあまり意味がないのだ

それに一度そんな事をしたら

次も同じ事を命じられるに決まっている

カオリの様なお客さんは

キャストが酔い潰れるのを見るのが楽しいのだから…

何とか話を彼女が今気になっているオトコの話にシフトさせ

「それで恋の進展はあるの？

　アンタいざとなるとオクテだから…」

「やだ～！！！」

でっかい身体をよじって恥らう

その後、カオリの女友達が先に酔い潰れてしまい

ソファーで横になってしまった


時計を見るともう３時だ

外はまだ小雨がパラついている

私のケータイがメロディーを奏でた

ミッちゃんだ

当店で最強の女王様ゲスト

先週トシも彼女のテーブルで洗礼を受けたばかりだ

「ベイビィ愛してるわ～

　だから早く迎えに来て、早くゥ～！！！」

受話器の向こうから絶叫が響く

トシ、ここからが勝負よ

オカマバーは瞬発力より持久力よ

私はタクシーを停めて吉祥寺へ向かったのだった