熱帯夜の訪問者

お盆も近い

この時期は店前の通りもかなり寂しくなる

当局のご指導以来少し控えていたキャッチも復活したが

熱帯夜の中、暑苦しいオカマは不利なのか

近寄って来る勇気のある御仁は少ない

それでも先日こんなオジサマのご来店があった


見た目かなり出来上がっているご様子

随分ラフな格好なので近所の人だろうか

隣の店に入ったが、数十秒で出て来た

まさかお断りされたのでは？

私の姿を確認するや声をかけてきた

「おい、カラオケは歌えるのか？」

なるほど隣の居酒屋はカラオケがない

ワントーン高いよそ行きの声で

「勿論ございますわよ

　宜しかったら涼んでいらっしゃいませんか？」

初めてお見受けするオジサマである

しかもちょっと不安な出で立ちである

当店でワンタイムだけでも飲んでいただけるご予算をお持ちだろうかと

「お兄さま、当店は前金制だから安心よ」と

付け加えた

するとオジサマはすんなりと店に入ってくれた

そしてワンタイム分の料金をお支払い戴き

お席に腰を下ろされたのだ


ゴマメさんもヒデミさんも

最初は「あら大丈夫なのこのオッサン？」と言う様な眼差しを向けていたが

お金を戴いた以上は安心だ

手の平返したように「いらっしゃいませ～」

特にフケ専のゴマメさんは

「暑かったでしょう？」と優しくおしぼりを渡す


あまり見かけないお顔なので

「お兄さま地元の方ですか？」と尋ねると

「オレは小岩だよ」との答え

「あら～！偶然ね！！私もちょっと前に小岩で働いていたのよ」

ゴマメさんが歓喜の声を上げる

そこから先は小岩界隈のサウナの話で持ちきりだった

「レインボーサウナがお徳なのよゥ

　何たって１０００円で朝の４時から夕方６時まで居られるんだもの

　さんざっぱら通ったわよゥ」

オジサマはそのずっと先の“葛西サウナ”の常連だった

「知ってるわよゥ、あそこねェ」

ゴマメさん、どんだけサウナ通なのだ


ところで小岩在住のオジサマが何故この町で？

総武線一本で辿り着けるがかなり時間がかかる

「いや～電車乗ったら眠っちまってよ

　気が付いたら此処だったんだよ」

「あらやだ、お父さん

　じゃあ終電までに帰らなきゃね」

カラオケを歌いに来たのだから取り敢えず勧める

沢ひろしの「愛のふれあい」をムードたっぷりに歌い上げた

ゴマメさんと私は身をよじってオジサマの歌に酔いしれる

「んまあ素敵ィ～！」

「お兄さんもう一曲！」

こうして蒸し暑い夜は更けていったのである