恵方巻

あ～寒い、寒すぎる

今朝も電車を降りた瞬間

ホームから改札へ降りる僅かの距離すら

歩きたくないと思うほど早朝の空気は冷え切っていた

ダウンジャケットを着ていてもそう思うのだから

ナマ足だしてるような女の子は相当きついだろうと思う

何故そこまでして足を出す必要があるのだろう


昨夜もパラパラと雪が降っていた

積もるほどの勢いはなかったがとにかく寒い

こんな日はキャッチも辛い

雪がチラホラ舞う裏通りで

年増のオカマが寂しげに佇んでいる様は哀れを誘う

そんな私たちを見るに見かねたのか

とても心優しい人が居るのだ

ヒデミさんが外に立っている時に

一人の若い女性が近寄って来た

「もし良かったらコレ皆さんで食べて下さい」

そう言って彼女は足早に立ち去ったと言う


「見た事ない子だったわ

　いきなり近付いて来て私にコレを渡したのよ」

ビニールの中にはコンビニで売られている恵方巻が

８本も入っていたのだ

恵方巻とは元々関西地方の習慣で

節分の日に、その年の縁起が良いとされる方角を向いて

願い事をしながら太巻きを一気に丸かぶりすると言うもの

私が大阪のビデオ屋でバイトしている時も

隣の寿司屋のマスターが

節分の時に太巻きを差し入れてくれた事があった


そう言えば昨日は節分だった

雪のチラつく寂れた通りで

幸薄そうな年増のオカマが立ってるのを見て

その女性は可哀想に思ったのだろう

またヒデミさんの風貌は同情を誘うのだ

彼女が表に立っているとよくモノを貰う

小さな女の子から飴を手渡された事もあるらしい


一日遅れの恵方巻

今年の吉方“西南西”を向いて

素敵なオトコを手に入れられますようにと

一気に２本も丸かぶりして

願いを託した私なのだった