長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『6アンダーグラウンド』

2019-12-14 | 映画レビュー(し)

 いつも通りライアン・レイノルズが昔懐かしネタで無駄口を叩き、若者から相手にされない場面が出てくる。その度に彼は「ちっ、ミレニアル世代かよ!」と毒づく(ついこの間までゲースロの最終回を堂々とネタバレするエンタメ通だったのに!)。
 監督のマイケル・ベイも内心そんな気持ちでこの数年を過ごしていたのかもしれない。『バッドボーイズ』『ザ・ロック』『アルマゲドン』などで一世を風靡したのはもう20年以上も前のこと。ド派手なアクションと破壊による通称“ベイヘム”演出は90年代ハリウッドアクションを象徴する大らかさだったが、そんな彼も2000年代以降はロボットアニメ『トランスフォーマー』の実写版でファミリー映画へとナイズされたベイヘムでその衝動をごまかし続けてきた。原作アニメやロボットに対する明らかに愛のない演出は批評面はもとより、やがて興行面でも右肩下がりとなり、もはや過去の人となりつつあったと言っても過言ではないだろう。アメコミ映画が市場を席巻する今日、ロボット映画のフランチャイズ以外でベイに金は集まらなかったのではないか。

 そこに現れたのがNetflixである。本作では従来のベイ映画同様規模のバジェットを用意したと言われており、本作に確かな勝算があった事が伺える。今年、アダム・サンドラー、ジェニファー・アニストン共演のNetflix映画『マーダー・ミステリー』が破格の視聴者数を記録したと報じられたが、そこには90年代後半~2000年代前半にかけてアダム・サンドラー映画を観に行った客層が所帯を持ち、劇場に行けなくなった代わりにNetflixで新作を見ているという分析があるらしい。ベイ映画の全盛期もまさに同じ年代だ。
確かに日本に住む筆者の環境だけ見ても、ケーブルTVではいまだに前述のベイ作品が何度も再放送されている。ビッグスクリーンが似合うマイケル・ベイのド派手なアクションをスケールはそのままに配信限定にする、というビジネスモデルは十分に採算の取れる企画だったのだ。

 前置きが長くなった。かくしてマイケル・ベイ新作『6アンダーグラウンド』は90年代ハリウッドアクションで育った世代にはたまらない娯楽作になっている。しかもNetflixだからレイティングを気にした自粛もなし。人体破壊はじめ悪趣味で不謹慎なギャグも盛り沢山だ。『ザ・ロック』のカーチェイスを見る度に「あー、見えない所でたくさんの市民が巻き添えくらってるんだろうなー」とは常々思っていたが、本作ではホントに轢いてるし!!

この巻頭20分のカーチェイスだけでもファンは十二分に元が取れるので、以後のベイ映画らしい冗長さには目をつぶる事にしてリミットレスな演出を楽しむべきだ(パルクールは素晴らしいが、アクションのトレンドとしては二昔前だよなぁ)。彼が近年『トランスフォーマー』シリーズで常に平均150分台のランニングタイムだった事を思うと本作の128分という尺は驚異的な短さであり、もはや恒例となっているリアリティの欠片もないブロンド美女枠に何とメラニー・ロランを配役するなど、“洗練”という言葉をベイに使うのは憚られるがNetflixとのマッチングは非常にいい効果を上げている。あのマイケル・ベイにすら大金を渡して好きな物を撮らせたという本作の成功は今後、配信映画のさらなるスケールアップを加速させていく事だろう。


『6アンダーグラウンド』19・米
監督 マイケル・ベイ
出演 ライアン・レイノルズ、メラニー・ロラン、コーリー・ホーキンズ、ベン・ハーディ、
アドリア・アルホナ、マヌエル・ガルシア・ルルフォ、リオル・ラズ、デイヴ・フランコ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『17歳』 | トップ | 『アトランティックス』 »

コメントを投稿

映画レビュー(し)」カテゴリの最新記事