長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』

2023-05-27 | 映画レビュー(し)

 カナダの画家モード・ルイスの半生を描く本作は、幼い頃からリウマチに苦しみ、家族からは穀潰しとして厄介者扱いされてきた彼女が、同じく愛を知らずに生きてきた後の夫エベレットと出会い、生涯連れ添った人生を描いている。誰もが一度は目にしたことがある素朴な作風を生み出したモードの創作宇宙よりも、社会からつま弾きにされた2人のラブストーリーが優先される本作は、」サリー・ホーキンスとイーサン・ホークという現代の名優によって過度な美化に陥ることなく、2人の演技が映画のレベルを1つも2つも上げている。出世作となった『ハッピー・ゴー・ラッキー』以後、聖性をまとった童女を演じ続けているサリー・ホーキンスは生まれてこの方、故郷を出ることなく育ってきたモードが日々の生活と大自然に創造性を見出す純真を体現し、これはアカデミー主演女優賞にノミネートされる翌年『シェイプ・オブ・ウォーター』の直前のパフォーマンスである。一方のイーサン・ホークは『魂のゆくえ』の前年。愛を知らないが故に無骨で粗野なエベレットを年々深みを増すしわがれ声で演じ、ホーキンスとの共演は至高と呼ぶに相応しい。カナダ映画ゆえか、日本での公開が2年も遅れ、モードの画風とは似ても似つかない装飾過多な邦題が付けられてしまったが、地元カナダのアカデミー賞では作品賞をはじめ、主要部門を総ナメにしている。ホーキンス、ホークの充実期を知る意味でも見逃すには惜しい1本である。


『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』16・加、アイルランド
監督 アシュリング・ウォルシュ
出演 サリー・ホーキンス、イーサン・ホーク

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