長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『フローラとマックス』

2024-07-12 | 映画レビュー(ふ)

 自伝的青春映画『シング・ストリート』、アンソロジーTVシリーズ『モダン・ラブ』を経て、ジョン・カーニーが再びアイルランドの市井に帰ってきた。ダブリンに暮らすシングルマザーのフローラは17歳の時に息子マックスを産み、彼が思春期を迎えた今も遊び方は変わらない。そんな母をマックスが快く思うわけもなく、2人の間は月並み以上にコミュニケーションが断絶している。元バンドマンの夫イアンはよそに女を作って別居中だ。あたしの人生、いったい何なんだ?誰かに好かれたい。誰かに尊敬されたい。往々にして芸術行為のきっかけは俗っぽいものである。フローラはYouTubeで見つけたアメリカ在住のイケメンミュージシャンから、ギターのレッスンを受け始める。

 はじめこそ軟派な気持ちで始めたフローラだが、上達し、内なる芸術性を発見する喜びに目覚めることで、意外や自身にアレンジャーの才能があることに気付き始める。カーニーは本作でもまた名もなき人々と芸術の不可分性を描き、U2のボノを父に持つ主演イブ・ヒューソンのフローラ像は小気味がいい。ギター講師のジェフを演じるのはジョゼフ・ゴードン・レヴィット。2010年代前半まではハリウッドを背負う次期スター候補と目されてきた彼が、夢破れた者の悲哀を体現する中年の渋みは味わい深いものがある。

 フローラが自身の内なる音に耳を澄ませれば、やがて息子との間にも言葉が通う。部屋に閉じ籠もる息子はなんとPCでトラック作りをしていた。マックスもまたモテたいがために音楽をやっていたのが微笑ましく、気づけば元夫イアンも巻き込んでのバンド結成だ。『シング・ストリート』で主人公の兄を好演したジャック・レイナーがイアンを演じ、またしてもウンチクをかましているのが可笑しい。ジョン・カーニーは大きくも慎ましやかな筆致で、音楽がもたらす幸福を描き出してくれるのである。


『フローラとマックス』23・米
監督 ジョン・カーニー
出演 イブ・ヒューソン、ジャック・レイナー、オーレン・キンラン、ジョゼフ・ゴードン・レヴィット

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