長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『少女バーディ 大人への階段』

2023-03-15 | 映画レビュー(し)

 リドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』は中世フランス時代から現在に至るまで女性が悲惨な扱いを受けていることを描いていたが、13世紀イギリスを舞台にしたレナ・ダナム監督による本作はなんとそれをコメディとしてやってのけている。没落貴族の娘キャサリンは裁縫や絵画といったお姫様教育よりも、城下で町民の子どもたちと泥だらけになって遊ぶのが好きなお転婆娘。ところが浪費癖のある父(ちゃらんぽらんさが可笑しいアンドリュー・スコット)が持参金目当てにキャサリンを嫁に出そうとしていることが明らかになる。誰かの妻に収まるなんて許せない。十字軍に入って戦に出ることを夢見るキャサリンは、初潮が来たことを隠し、ありとあらゆる手段で見合い相手を撃退していく。時代劇にもかかわらずレナ・ダナムは全編にポップソングを散りばめ、キャスティングは『ブリジャートン家』同様、時代考証を無視したカラー・ブラインド・キャスティングを決行。まるで領主にならなかったモーモント女公のようなベラ・ラムジーもダナムのユーモアセンスに呼応してなんとも溌剌だ。ラムジーは『ゲーム・オブ・スローンズ』『ダーク・マテリアルズ』と大作に出演した後、ダナムというアイコニックな作家の映画に出演し、次はなんとHBOのTVシリーズ『THE LAST OF US』に主演する絶好調ぶり。彼女らのタッグによって現在(いま)を生きる若者たちをエンパワメントするガールズムービーとして成立している。

 そんなキャサリンの憧れが十字軍に遠征した叔父サマだ。演じるジョー・アルウィンがすこぶる格好良く、かつてアダム・ドライバーも一皮剥いたダナムによってブレイク到来か。これまでも『ハリエット』『ふたりの女王 メアリーとエリザベス『女王陛下のお気に入り』でそのルックスを印象付けてきた彼だが、いずれも悪役。2010年代後半、アイデンティティポリティクスの時代は白人二枚目俳優にとって役柄が限定される厳しい時代だったかもしれない。本作と同時期にリリースされた『Conversation with Friends』は『ノーマル・ピープル』のサリー・ルーニーが手掛けた小説のTVシリーズ化で、アルウィンは作中、何度も“美しい顔”と表現されるイケメン俳優を演じている。ようやくルックスと演技力がハマる作品に巡り会えてきた様子で今後も楽しみだ。『窓際のスパイ』のジャック・ロウデンといい、90年代生まれの英国若手俳優がようやく認知できてきた筆者である。

 才人ダナムにしてはやや出遅れた感のあるネオウーマンリブ映画だが、独自のユーモアとベラ・ラムジーの快演によってポジティブなエネルギーをもらえる好編となった。


『少女バーディ 大人への階段』22・米
監督 レナ・ダナム
出演 ベラ・ラムジー、アンドリュー・スコット、ジョー・アルウィン、ソフィー・オコネド、ビリー・パイパー、レスリー・シャープ
※Prime Videoで独占配信中※

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