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34 アームストロング家の白バラ

2007-01-03 13:22:39 | 鋼の錬金術師
34 アームストロング家の白バラ

 アームストロング家は美しい白バラで有名である。これには二つの意味がある。庭の一角を飾る白バラの美しさはどんな庭師でも賞賛せざるを得ない。そしてもう一つの意味は末娘のキャスリンのことである。この一族の者にしては珍しく小柄で色白の彼女は咲き初めたバラのつぼみに例えられた。古典的な表現だがキャスリンを一目見た者は誰でも、彼女のためにこの言葉は用意されていたと納得した。
 兄達とは年の離れた彼女は今年16歳になる。社交界に正式にデビューしたばかりであり、いずれ上流の公子と婚約すると見られていた。しかし、兄があまりに可愛がりすぎた為か殿方と一人で話もできなかった。それを心配した兄が以前にマスタングの部下と見合いをさせてみたのだがうまくいかなかった。(コミックス7巻参照)

最南端基地から戻ってきた兄はもう一つ心配事を抱えていた。
(あの練成陣はいったいなんだったのだ)
絵を描くのが好きな彼は記憶のままにそれを描きとめた。
白い肌に薄紅で描かれた練成陣の絵は自分でも良い出来と思えた。
(ラッセルに贈ろうか。自分でも見たいだろうし)
「まぁお兄様、女の方をモデルにされたのですか」
お茶を持ってきた妹がわずかに機嫌の悪い声になる。
「いや、これは、」
男の絵だと答えかけてアレックス・ルイ・アームストロングは止まった。
(そういわれてみれば確かに女に見えるかもしれんな)
完全に北方系のラッセルの肌は彼の妹並に色白だった。
背中しか描いていないので性別ははっきりしない。
(ラッセルにはもう一枚描くか。練成陣だけの絵を)
どうもこの絵をそのまま見せるのはまずいという気がする。
お茶を飲みながら妹は白バラ園のバラが枯れかけていると言い出した。少し前からしおれかけたため高名な庭師を幾人も頼んで手を入れてもらったのだがどうにもならないようだ。
「お兄様が造ってくださったお庭なのに」
泣きそうな妹を見て、兄はほかに腕のいい庭師に心当たりはないかと思案した。
広大な庭の一角にある白バラ園はこの兄妹にとって特別な場所であった。そこは兄があのイシュヴァールに行く前に妹の誕生日の贈り物にと造った小庭。あいにくと注文の特別な品種のバラの苗が来なかったので、兄は軍務から帰ったら続きを作ろうと約束して出陣した。

そしてようやく戻ってきた兄は、庭を造れるような状態ではなかった。
その後、錬金術師専門の精神科医であったヒーラーの手を借りながら、守られてばかりだった小さな妹は兄の精神の支えになっていた。もっともキャスリン自身は自分がどんな役にたったのか気づいていない。
「ラッセルなら、何とかなるかもしれんな」
「お兄様?」
「庭師ではないが、白雪姫(バラの名)達を助けられるかもしれぬ」
「うれしいわ。そんな方がいらっしゃるの」
あの絵のモデルだとは兄は言わなかった。

アームストロングはブロッシュを通じてラッセルのスケジュールは把握している。珍しく休みになった日をめがけて妹との連名で公式の招待状を送った。
最南端基地で散々世話をかけたこともあり、ラッセルは断れなかった。少しでも暇があればエドのことや赤い石の研究を進めたいのだが、仕方がない。
話を聞いたエドが無責任に楽しんでいる。
「少佐(アームストロング大佐)の妹を口説いたらシンデレラボーイだぜ。がんばれよ!」
「バラを手入れするだけだ。第一大佐の妹さんはおいくつなんだ」
「しらねぇな。でも少佐がロイより上だろ、二五歳ぐらいじゃないか」
この招待を受けるのは弟も大賛成した。このところ兄が何か悩み事を抱えているのは気がついていた。すこしでも気晴らしになればいいと思った。
「「いってらっしゃい!」」
弟とエドの声に送られて車は走り出した。

(さすがというよりここまですると嫌みだな)
ラッセルの見上げるはるか上にアームストロング家の家紋のついた旗が風になびいている。
でかい!としかいえない城であった。200年ほど前に流行った古典建築のアユール式の重厚極まりない城。アームストロング家の歴史は約200年とブロッシュが教えてくれたが城は歴代の当主の手で(文字通り錬金術の手で)修繕されつつも当初の様式を保っている。
そして庭は生垣を刈り込んで模様を造る、これも古典様式である。城の当主の部屋の窓から見れば一番眺めが良いように造られたそれは巨大な練成陣を描いていた。
ラッセルは不快感を味わっていた。巨大な練成陣を形作る庭に入る気がしない。
老執事が若様とお嬢様がお待ちでございますと丁重に言うのだがどうしてもそこを通りたくない。
「バラ園で待っているとお伝えください」
「はい、それでは東屋にどうぞ」

庭の一角に農家をそのまま移したような小さな家がある。中は応接室になっている。そこでさほど待つことも無く、アームストロングが小柄な少女を連れてきた。
「ラッセル、待たせてすまぬ。妹のキャスリンだ」
常にポーカーフェイスを保っているラッセルすらも驚きが表面に出るのを抑えきれなかった。
(エド、お前の予測は大はずれだ。かわいいお嬢さんじゃないか)
ロイに仕込まれた女性への礼儀がこれほどありがたかったことは無かった

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