金属中毒

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うるさい犬

2007-01-13 18:58:09 | 鋼の錬金術師
逃亡者達8

うるさい犬には餌をやらなくちゃ

「欲しいって言うのならくれてやればいいじゃないですか。
あんたは飼い主だ。うるさい犬に鞭を使うのもいいけどたまにはうまい餌を食わしてやったらどうです。それで犬が腹を下せばあんたとしては扱いやすくなる」
ここはアメストリスで一番警備が厳しいはずの場所、大総統官邸。
その場所に呼ばれもしないで入り込む唯一のジャーナリスト。
ジャン・ハボック。
だが、彼はもう少し背が高かったのではないだろうか。
そして、彼の瞳はもっと明るい青ではなかったか?
何よりも彼はこういう言い方をする人ではない。
まるで、ここにいる彼はハボックという男をかたどりして作ったコピーのようだ。
リザ・ホークアイはひそかに銃を握った。
ロイはハボックに背を向けて窓から月を見ている。
「いい月だな。ハボック、約束した夜のようだ」
「古い話より今の話をしましょうや、大総統」
「そうだな」
言い終えるとロイは振り返った。
その手にはヒトカゲの紋章の手袋、それこそは焔の錬金術師の戦闘スタイル。
「ちっ」
ハボック が舌打ちした。
その音を掻き消すかのように銃声が響く。
リザの銃から逃れたのはあのスカーぐらいである。
今夜、ハボックの姿をした者はリザの連戦連勝記録を停止させた。
パチッ
聞きなれた音とともにハボックの姿が青い焔に包まれた。
リザは震えた。ロイは怒っている。あの者達が再び暗躍していることに。何よりもハボックの姿をしたことに。
ハボックの姿をした物が崩れた。そこには、忘れられるはずがない。あのホムンクルスが薄笑いを浮かべている。
「いいのかよ。俺を殺したら、あの坊やはあっさり死ぬぜ。ようやく幸せになった坊やを殺せるか」
「ロイ、だまされないで」
さらに銃弾を打ち込む。
「へー、その言い方きくと、あんたこのおばはんとやってんだ」
はっと、リザが身を硬くした。自分はこのモノの前で何を言ったのだ。
「撃つな、リザ!」
ロイがリザとホムンクルスのあいだに立った。
リザを守ろうとしているとも、ホムンクルスを撃たせまいとしているようにも見える。
「大総統」
「撃つな。リザ」
月が翳った。
その一瞬の闇に溶けるようにホムンクルスは消えた。
がっくりとひざを突くロイをリザの手が支える。
「どうして」
なぜ撃たせなかったのか。なぜ焔をとめたのか。
「事実だ」
ロイの答えは苦しい。
あのホムンクルスはあの戦いのときラッセルの胸を貫いた。今それを知るのはセントラルではロイ一人である。
即死と思われたが、いくつもの偶然によってラッセルは生き残った。
そして、いつしかロイは気づいていた。ラッセルの体に巣くう黒い繊維のようなものに。
否定したかったが、あれはあのホムンクルスの一部であったのだ。
「あの子は最初からあいつらのものだった」
それはマスタング政権が前政権の罪状を暴きながらも、なおやつらの手の内で踊らされていることを奥深く暗示していた。



ジャン・ハボックは大総統官邸の廊下を歩いていた。
彼の手には次の売り込み先に持っていく記事があった。
それはまだどこにも誰にも見せていない記事。まだ、現実ではない記事。

守護隊の名を引き継ぐのは金のトリンガム!!
翼竜隊が、守護隊の役目を一部引き継ぐ。
現守護隊は解散。
ボース将軍が残兵を引き継ぐ。
ボース将軍下の隊の名は国土復興隊とする。
現守護隊の補佐官と副官はボース将軍指揮下に入る。
以下に過去の守護隊の功績が分析されている。
どちらかといえばセリムの功績をメインに記事は構成されている。

ハボックの記事はまだ捏造だ。だがこの官邸の主をその気にさせればスクープに化ける。
なんとしても化けさせたかった。
ラッセルがなぞの暴徒に殺害され、アームストロングは長年の負傷が限界を超えて引退した。
今、フレッチャーとマスタングの間に間隙があると国の内外に知られるのはまずい。
ここは大佐(マスタング)に引いてもらうしかない。だが、坊やにもちゃんとお灸をすえてやる。そのためにもラッセルのことを正確に知る必要がある。あの骨があいつだとはふざけるのもほどがあろうというところだ。
あいつの片腕は失われていたのだ。知る者はあまりにも少ないが。
天文学的価値のある作られた腕。切り取られた骨を育て、人工皮膚を植え、間を人造筋肉でつなぐ。
軍でもラッセルの腕が偽物だったことはほとんど知られていない。あるいは弟すら知らないかもしれない。
ハボックは月明かりの射し込む廊下を大総統執務室に向けて歩いた。
彼の通り過ぎた外の道を闇の者が彼の姿で通り過ぎていった。


失踪10涙の丘へ

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