金属中毒

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50 暴走する練成陣12

2007-01-03 14:22:47 | 鋼の錬金術師
50 暴走する練成陣 その12
初めて訪ねた紅陽荘は静かであった。
ほとんど人の気配が感じられない。
フレッチャーはベルを押してから3分間待たされた。
ようやく開かれたドアは家紋をデザインしたと思われる金のレリーフで飾れていた。
会うのは初めてだがこの人がアレックス・ルイ・アームストロングであることはすぐにわかった。
兄は押し付けられた軍人生活についてほとんど口にしないが、この大きな少佐(今は大佐)とブロッシュのことだけはよく話した。普段のポーカーフェイスを置き忘れたかのようにほんのりとほほを染めて話す兄に弟は何かもやっとした感情を抱いていた。
「はじめましてアームストロング少佐。フレッチャー・トリンガムです。ご病気の方がいらっしゃると准将からうかがいました」
フレッチャーを始めて見るアレックス・ルイの感想は
(あまり似てないな)であった。
確かによく似た金の髪と銀の瞳ではあるが、ルイの目には兄弟というよりいとこ程度の類似しか見えなかった。
(どうやら喧嘩の根は深いらしい。兄のことを口にしたら意地を張って来なくなるとマスタング殿は思われたな。それならばいきなり会わせるか。意地を張られては説得する時間が無駄になる)
ラッセルがいつまで意識を保てるかの保証はない。彼が弟を認識できるうちに逢わすべきである。

病室内は無残な状況だった。高級住宅の値段より高い医療機械は金のつる草に打ちぬかれ廃品と化していた。床にも壁にも10箇所も大穴が開いている。
(兄さんがヒステリーでも起こした跡のようだ・・・兄さん?)
大きなベッドに眠っているように見えるあの人はもしや。
弟の足が止まった。
アームストロングがドアを閉めた。
(兄さん、どうしてここに?准将が連れてきた?僕が一人でいたのに、こんな近くにいたのに)
「なるべく近くで話しかけてやってくれ。あまり聞こえていないようだ」
アームストロングに押されるようにベッドに近づいた。
(兄さん。いったいこれは!なぜ!)
兄はあの弟を拒否した夜に、すでにひどく憔悴していた。
だが今の状態と比べればあの時はまだしも元気だったと思う。少なくとも自力で動けていた。今の兄はほほの肉はもはや削れないほどに落ち、爪は土色に変色し、わずかに見える手は骨の形が浮き出ている。シーツに隠れているが全身の状態も想像がついた。

弟はいきなりアームストロングにつかみかかった。
「軍は、軍は兄さんに何をしたのです!」

身長差が50センチ以上あるのでつかみ掛かったといってもシャツを握っただけである。こぶしを握って打ちかかっていくが鍛え抜かれた軍人は1ミリとて動かない。
(なるほど。この子の立場で見ればそう見えても無理はない)
ラッセルの背中に練成陣が浮かんだのは最南端基地での話である。
弟の目から見れば、軍があのときに兄に何かをしたように見えるのだろう。
(ラッセル、隠すことはかならずしも救いにはならない。この子はやはり君の弟だ。強く、激しい。静かな小川に見えてもそのときにより激流になる流れのような子だ。真実を、今考えられる範囲の真実を教えよう。そうしなければ二人とも救われない)
大きな手は簡単にフレッチャーの手を押さえた。
「離して」
振り払って兄のほうへ走りよろうとした。だが、大きな手は弟を縫いとめた。
「兄が大事か?」
低い大人の声が上から響いた。
「当然です。僕のたった一人の兄さんなんだ」
「そうか。(アルフォンスの言葉を聞いているようだ。この兄弟たちは運命が変わっていれば立場が入れ替わっていても不思議はないのだ)
父親より大事か?」
「いったい何を?」
「答えよ。フレッチャー・トリンガム。兄と父とどちらが大事だ?」
「兄さんは僕のものだ。兄さんは僕の夢で、道標で大切な全てだ」
暴れて手を振り払って、兄の下に走ろうとする少年をアームストロングの手はまだ縫いとめていた。
「では父はどうだ。父と兄を比べられるか」
「離して!兄さんに決まっている。父さんのこと小さいころは嫌いじゃなかったけど、そうだ、僕は兄さんの思い出だから、その中の父さんが好きだったんだ」

51 暴走する連成陣 その13
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ラッセルの耳が聞こえにくくなっているのがまことにもったいなく思えます。
弟がこんな風に言ってくれるなんてもうありえないかもしれないのに。

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