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金と銀

2007-01-13 15:04:31 | 鋼の錬金術師
逃亡者たち6

金と銀の3人兄弟

奇跡の大バーゲンセールとエドワードをして言わせしめた三ヶ月が過ぎた後、エドは闘病生活を終えた。今はロイを相手にリハビリの一環として組み打ちの練習である。
ロイは大事なエドに怪我をさせないように十分以上に加減している。それがエドには気に食わない。本気でやらなきゃ腕が上がらないと言い張る。
「なー、師匠だってそう言ってただろ。フレッチャー」
「うん、そうだね。でも急に無理したら危ないし、エド兄さんがまた怪我でもしたら僕心配だよ」
かわいい顔に涙一粒。これで今日の修行はおしまいだな。
ハボックはラッセルの拳を軽く受け流した。つきは鋭いが筋力がまるで足りない。まだ10分と経っていないのにもう息が乱れている。こいつも休ませたほうがいい。
エドは弟に弱い。特にこの一番下の弟にはどうしようもないほど弱い。
まして、下から涙目で見上げられると100パーセント勝てない。
「アップルパイ焼いてきたからお茶にしましょう」
甘い香りがすると思ったらウィンリィちゃんだ。
この  3人兄弟  の幼馴染。
ラッセルは部屋に上がっていく。いつもそうだ。どうも彼女が苦手らしい。その点、この一番下の弟はうまく適応している。
ハボックの足元に淡い銀に光る組み紐が落ちている。
ラッセルの髪紐だ。某大物軍需産業社長の正夫人の手作りである。
高価な品ではないが誰が作ったかを考えると価値は計り知れない。
ハボックは紐を拾い上げてラッセルを追いかけた。
何か言いたげな一番下の弟に届けといてやるよと声をかける。
「お願いします」
透明感のあるボーイソプラノで言う。
「ウィンリィ、だんだんうまくなったな」
すでに一番大きい一切れを銜えたエドの声を階下に聞きながらハボックはドアを開けた。開けてから声をかける。
「落し物だ」
返事はない。シャワー音がする。
予測がついたのでドアを開いた。
「う、ぐう」
のどを締め付けられているような声。
拳を受けたときいつもよりさらに軽いと思ったが、やはり具合が悪かったらしい。
「無理ばっかりしてやがる」
こいつの思いもわからないではない。
大事なのはまず、エド。そして弟。
あるいは逆の順序か。
だが、自分の体調を無視していい訳ではないはずだ。
だいたいエドはまだ霧に包まれているようでどうも何もかもぼうっとしているようだが、弟は兄が無理をしているのにとっくに気づいている。
かわいい弟に心配させているようでは本末転倒もいいところだろうが、この意地っ張りの兄弟はどちらも口にしない。そういう点は血がつながっているわけでもないのに両方の兄弟はよく似ている。
それに外見の特徴も似ている。特に金髪銀目の末弟を挟むと金と銀の2人も兄弟に見えてくる。3人が並ぶと世間の目ではきれいな兄弟に見えるようだ。(マスタングの隠し子騒動はもうとっくに起きた。しかし、いかにマスタングでも14歳で隠し子をつくってはいない)。
誰が長男に見えているかは禁句だろうが。
シャワー音が止まった後3分待ってもラッセルは出てこない。
予測の範囲だからハボックは慌てない。シャワー室のドアを一気に引いた。
留め金が吹っ飛ぶ。
「予測どおりだな」
壁に寄りかかり目を閉じている。めまいか貧血か、そのあたりだろう。
血の気の薄い肌。整いきった容姿。
(やべ、立ちそうだ)
何がたつかについてハボックは考えないことにした。
「ハボック少尉」
ラッセルのほうもいきなりシャワー室のドアまで開ける相手は予測済みだったらしい。さほど驚いていない。
まぁたしかにあの貴族の坊ちゃまならまず声をかけるだろう。
「動けるか」
「・・・まだ、もう少しかかりそうです」

今日は子供たちを映画に連れて行くことになっていた。
「前に見たやつの続きだ」
宣伝のラジオ放送を聞いたエドが言い出した。
「約束しただろ。続きも見に行こうって」
弟2人に言い出したのは3日前。だがその約束は誰としたのか?
忙しいロイは連れて行く暇などなくてハボックが引っ張り出された。

ハボックも本当は暇ではないのだが、エドの今の事情をわかっている者でないと安心して任せられない。ロイが無理に頼んだ。
エドの今の事情、エドワードの中では弟たちと3人で錬金術の修行をしていて、亡くなった父(聞いた限りではヒューズのイメージである)の古い友人のロイのところでさらに修行しているうち、自分が病気になりそのために少し記憶があいまいになったということになっている。
イーストシティ時代の記憶もある。 3人で 旅をしていた記憶も。
ただ、エドの中にはなぜ旅をしていたのかの目的意識の記憶はない。
それについてはラッセルが説明してつじつまを合わせた。
「俺の体内の練成陣の秘密を探るため旅をしていた」
エドは納得した。

映画館ではポップコーンだ、アイスクリームだとエドがはしゃいだ。
これで17歳とは思えない。
現時点でラッセルは16歳、フレッチャーは14歳。
エドを真ん中に挟んで3人が座る。席の空きが3つしかなかったのでハボックは後ろに回った。エドとしては弟2人を守るつもりのようだが、弟役2人には別の思いがある。
ラッセルはかわいい弟とエドは自分が守るつもりでいる。
フレッチャーは大事な兄と、友に託されたエドを守る覚悟である。そのためには涙も武器のうちである。
ハボックは周りを警戒しながらも3人のそれぞれの保護者意識を見ている。
このところセントラルは以前に比べて治安が悪い。
ロイとしては家から出したくないが、いつまでも家の中だけに閉じ込めるのも無理がある。
「なるべく軍関係者に会わすな」
軍関係者は有名な鋼の錬金術師のこともその弟鎧の錬金術師のこともよく知っている。うかつなことを言われてはエドの記憶と矛盾する。
映画を純粋に楽しめたのはエド一人だけだった。


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