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上海事変 その4 桃華園にて

2008-07-31 22:39:34 | コードギアス
上海事変その4
星刻が天子を連れて行ったのは小さな桃華宴。あいにく花は盛りを過ぎていたが、それでも遅咲きの品種が優しい色に空気を染めて、天子を喜ばせるのには十分だった。
シンクー、シンクー
淡い肩衣をまとった天子が桃の木と戯れるかのように走り回る。肩衣がふわりと風の形にうかぶ。はしゃぐ声が春の風に舞う。
破邪の木ともいわれる桃の老木に寄りかかり、シンクーはこの10日間まったく浮かべたことのない表情になる。穏やかな微笑。この10日間、黎武官は上海の戦場で殲滅戦を指揮し、反乱軍の指導者を文字通りの意味で一刀両断した。

神虎での白兵戦。体調を考えれば絶対に避けるべき事態だった。しかし、司令官としての立場が黎星刻に戦いから逃げる事を許さなかった。相手の司令官も同じような立場だったのだろう。
鋼剣で切り裂いた一瞬、見えた相手の顔。若かった。いや、まだ子供だった。15か16ぐらいか。黎星刻自身も軍では小僧扱いされる年だが、さらに若い。純銀の髪、濃いブラウンの瞳。雑種と蔑称される立場の子供だった。雑種たちが居場所を求めて、生きられる国を作ろうとして、上海の乱は起きた。だが、政治的思惑や経済的利益が錯綜する中、その理想は世界に発信される事さえなく潰された。
 あるいはゼロと成りえたかもしれない少年は、名を知られないままこの世界から消えた。

反乱軍の指揮官を白兵戦で切り裂いたあと、黎星刻は兵士達の歓声に答える形で神虎から降りた。
神虎将軍万歳。兵士達の声が英雄を呼ぶ。歓呼の声に答え黎星刻は愛剣を高く掲げる。
剣が煌めく。兵士達がそれに答えて軍刀を掲げる。
このとき、黎武官付けの侍従兵士が気が付いた。
「将軍、返り血・・・?」
黎武官の軍服は黒い血汚れで染まっている。
「あぁ、後で着替える」
簡単に返答されて、侍従兵士は納得してしまった。しかし、ナイトメア戦で返り血など浴びる事はありえない。神虎のコクピットは完全閉鎖型なのだから。その性能は宇宙にでもいけるほどの。


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