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上海内乱その3

2008-07-27 14:06:13 | コードギアス
上海内乱その3

『シンクーお外に連れていって』
そう言われたとき、軍人としての黎武官は断るべきだった。これから、軍の幹部達と協議しこの先の方針を決め、さらに今回の内乱の後始末を決めねばならない。誰を殺し、誰をこちらに取り込むか、その決定権は黎武官が握っている。星刻が行かねば協議が始められない。しかし、このとき天子の背後に星刻は星空を見た。それは実際には天蓋の天球図であったが星刻にはあの夜の星空に見えた。
「いずれ私が天子様を外にお連れいたしましょう」
「救っていただいたお返しとして……」
よみがえる誓いと小さな手の感覚。
天子は大きな瞳を見開いて星刻を見ている。『また後ほど』などと言ったら、その瞳から涙が落ちそうな気がする。
「では、少しの間だけなら」
後になってみれば、これが最大の間違いだった。

 中華連邦朱禁城の女官長は大変厳しい人だ。勝手に天子を連れ出すなど、もし女官長に出会いでもしたら5時間はお説教を受けるのは間違いない。すねに傷持つ身である星刻は女官長の通る道を巧みに避けた。そのためにまずは表の宮から外れて後宮に入る。いつも深夜の時間帯に通っていた道であるのでしばらく通らなくても身体が道を覚えている。仕官学生だったころさんざん通った道だ。何のために通ったかは・・・言わぬが華である。
明かりのついていない後宮は薄暗がりである。天子はこんな暗い場所を通った事などない。ちょっとびっくりしたが(シンクーがいっしょだもの)と怖くないと結論付けた。
「ここはなに」
「後宮です、急ぎましょう」
ぱちくりと、大きな瞳で見上げてくる天子、それに対して星刻の返答は機械的だ。天子がもう少し世慣れていれば星刻があせってごまかそうとしている事に気が付いただろう。でもまだ天子は何も気が付かない。
ちなみに天子がシンクーの後宮通いを知るのは、星刻が人である事をやめてからである。
 
上海の乱は裏に多国籍企業の資源占有権が絡んでいた。俗にレアメタルと呼ばれる31種の希少金属。その中でも特にタングステンは世界生産量の95パーセントを中華連邦が占めている。
中華連邦は大国だ。人口は世界人口の3割を超え、(正確な人口統計がないので推測値。別のデータでは4割との意見もある)公式人口は13億人。50を越す民族がひしめき合う多元的な国。それが中華連邦。その頂点に位する天子は、いまシンクーの上着にくるまって朱禁城の壁を越えた