Housaku1032
注がれた毒
エリスの街からの帰途は車だった.ラッセルが患者達を診て一人一人に声をかけた後、下に下りてみるともう車は用意されていた。一刻も早く大切な黄金達の所へ帰りたいラッセルは迷うことなく車に乗った。市長にも白水にも帰る事は言ってある。ラッセルにとって今は早く帰る事だけが問題だった。
車はすぐエリスの街を出た。だからラッセルは知らなかった。車が走り去った後、市長に言われてやって来た運転手がすでに車が無いことに驚いた事を。市長と白水が、ではトリンガムは誰と帰ったのかと疑問符をうかべたことも。
帰りに立ち寄ったオアシスにはちょっとした街があった。そこでラッセルはこんな噂を聞いた。
『あのイシュヴァールの英雄は革命を起こすつもりらしい。そのときに、シン軍を介入させるつもりだそうだ。シンへの代価は若返りの術を使う錬金術師をシン皇帝に売ること。鋼の錬金術師が死んだらそいつを送るそうだ』。
ラッセルは長年、といっても客観的に見ればほんの短い間だが、情報の中継屋をやっていた。たった一つの噂だけで信じるような愚か者ではなかった。しかし、逆に言えば確認できれば噂を信じるタイプだった。またこの噂には真実の分子が含まれていた。マスタングが至高の座を目指している事、大総統が倒すべき相手をあることは紛れも無い真実だった。
エリスからノリスの町への帰途、車はいくつかのオアシスに立ち寄った。これはこの時代のエンジンの性能からいって不可欠な事である。さもないと沙漠の真ん中で立ち往生しかねない。だが選ばれたコースそのものに毒がしこんであることに、ラッセルは気が付かなかった。
裏切り者!
裏切ったのは俺じゃない、あいつだ。
何のために!
オレはエドのためだけに。あいつのためじゃない!
この国の運命。そんなものしるもんか!
ラッセルの言葉は激しい興奮のため途切れかけた。
神経が高ぶりすぎて声が出なくなっている。
『ロイ・マスタングは鋼の錬金術師が死んだ後、・・・シン国軍を反乱に利用しようとしている。そのために若返りの術を使う術師を、銀時計を持つトリンガムをシンに売る』。
この噂は事実として確認された。幾つもの情報拠点でラッセルは事実を確認した。その結果ラッセルの精神は一気に激興した。
運転手の中年男が、ゆがんだ笑みを浮かべたことにラッセルは気が付かなかった。
ラッセルが憤ったのは、自分をシンに売るとしたくだりではない。怒りの元は『鋼のが死んだ後』と言う部分だ。
ラッセルはロイの部下でも友人でも仲間でもない。その彼らをつなぐのはエドワード。ロイはエドの法的な保護者で守り手だ。ラッセルはエドの肉体と精神を特殊な錬金術で支えている。
ロイとラッセルはエドを守る同士で、同時にライバルでもある。そのライバルの部分をより強く意識しているのはラッセルの方である。逆に言えばロイがエドの守り手であることを一番認めていることになる。だからこそ、この裏切りは許せなかった。
『エドが死んだ後』それをロイが言ったということが、エドの死を前提にしている事が許せない。
さて、ラッセルより冷静である事は間違いないブログ読者様に申し上げる。はたしてこの噂は裏切りになるのか?
落ち着いて考えれば否である。ラッセルはこういった事態に冷静な判断を下せなくなっていた。このことを捏造自伝はこう説明している。
『このころの私は、脳の半分以上をエドの肉体の維持に使用していた。そのために思考に乱れが出ていた。また常時繋がっている状態である以上、思考に影響が出るのはやむを得まい。このころの私が幾分衝動的にまた感情的になったのは、エドの影響が大きな原因であった』
入力者は基本的に捏造自伝の作者に賛成しているがこの項目だけはいただけない。というのも、ラッセルがエドに抱く感情からして上のような文章を書き残すとは認められない。しかし、むしろそれでもあえてこの文を残したのなら、これが真実という読み方もある。判断はトリンガム文書の研究の進みを待つことにする。
ラッセルは急速に日の陰ってくるオアシスの1遇に座った。彼は無意識に両手に一ぱいの砂をすくい上げた。さわやかな感じで今まで味わった事の無い重量だ。きめの細かい砂、ご婦人方の使う化粧品よりもっと細かい粒子。
すくい上げると指と指の間からさらさらとこぼれて落ちる。無生物の魂。この時代の詩人のカノンがその砂を表現した。『彼らは 何を訴たえるのか何かを囁くのか 』詩はこう結ばれている。
運転手がラッセルにコップを差し出した。水かと思って受け取ったラッセルは白い液体とそれにいっぱい入った細かい葉っぱを見た。それはこの地方の名物、アイランだった。
アイランは、ヨーグルト・ドリンク。地方によって若干の違いはあるが、セントラルのヨーグルト・ドリンクとの最大の違いは砂糖味ではなく塩味だということである。砂漠地帯の飲料として、ビタミンも塩分も取れ見た目をすずやかなアイランほどふさわしい飲み物はない。 百科事典より。
あと30分も走ればノリスの街に着くと運転手が自分もアイランを飲みながら言った。
注がれた毒
エリスの街からの帰途は車だった.ラッセルが患者達を診て一人一人に声をかけた後、下に下りてみるともう車は用意されていた。一刻も早く大切な黄金達の所へ帰りたいラッセルは迷うことなく車に乗った。市長にも白水にも帰る事は言ってある。ラッセルにとって今は早く帰る事だけが問題だった。
車はすぐエリスの街を出た。だからラッセルは知らなかった。車が走り去った後、市長に言われてやって来た運転手がすでに車が無いことに驚いた事を。市長と白水が、ではトリンガムは誰と帰ったのかと疑問符をうかべたことも。
帰りに立ち寄ったオアシスにはちょっとした街があった。そこでラッセルはこんな噂を聞いた。
『あのイシュヴァールの英雄は革命を起こすつもりらしい。そのときに、シン軍を介入させるつもりだそうだ。シンへの代価は若返りの術を使う錬金術師をシン皇帝に売ること。鋼の錬金術師が死んだらそいつを送るそうだ』。
ラッセルは長年、といっても客観的に見ればほんの短い間だが、情報の中継屋をやっていた。たった一つの噂だけで信じるような愚か者ではなかった。しかし、逆に言えば確認できれば噂を信じるタイプだった。またこの噂には真実の分子が含まれていた。マスタングが至高の座を目指している事、大総統が倒すべき相手をあることは紛れも無い真実だった。
エリスからノリスの町への帰途、車はいくつかのオアシスに立ち寄った。これはこの時代のエンジンの性能からいって不可欠な事である。さもないと沙漠の真ん中で立ち往生しかねない。だが選ばれたコースそのものに毒がしこんであることに、ラッセルは気が付かなかった。
裏切り者!
裏切ったのは俺じゃない、あいつだ。
何のために!
オレはエドのためだけに。あいつのためじゃない!
この国の運命。そんなものしるもんか!
ラッセルの言葉は激しい興奮のため途切れかけた。
神経が高ぶりすぎて声が出なくなっている。
『ロイ・マスタングは鋼の錬金術師が死んだ後、・・・シン国軍を反乱に利用しようとしている。そのために若返りの術を使う術師を、銀時計を持つトリンガムをシンに売る』。
この噂は事実として確認された。幾つもの情報拠点でラッセルは事実を確認した。その結果ラッセルの精神は一気に激興した。
運転手の中年男が、ゆがんだ笑みを浮かべたことにラッセルは気が付かなかった。
ラッセルが憤ったのは、自分をシンに売るとしたくだりではない。怒りの元は『鋼のが死んだ後』と言う部分だ。
ラッセルはロイの部下でも友人でも仲間でもない。その彼らをつなぐのはエドワード。ロイはエドの法的な保護者で守り手だ。ラッセルはエドの肉体と精神を特殊な錬金術で支えている。
ロイとラッセルはエドを守る同士で、同時にライバルでもある。そのライバルの部分をより強く意識しているのはラッセルの方である。逆に言えばロイがエドの守り手であることを一番認めていることになる。だからこそ、この裏切りは許せなかった。
『エドが死んだ後』それをロイが言ったということが、エドの死を前提にしている事が許せない。
さて、ラッセルより冷静である事は間違いないブログ読者様に申し上げる。はたしてこの噂は裏切りになるのか?
落ち着いて考えれば否である。ラッセルはこういった事態に冷静な判断を下せなくなっていた。このことを捏造自伝はこう説明している。
『このころの私は、脳の半分以上をエドの肉体の維持に使用していた。そのために思考に乱れが出ていた。また常時繋がっている状態である以上、思考に影響が出るのはやむを得まい。このころの私が幾分衝動的にまた感情的になったのは、エドの影響が大きな原因であった』
入力者は基本的に捏造自伝の作者に賛成しているがこの項目だけはいただけない。というのも、ラッセルがエドに抱く感情からして上のような文章を書き残すとは認められない。しかし、むしろそれでもあえてこの文を残したのなら、これが真実という読み方もある。判断はトリンガム文書の研究の進みを待つことにする。
ラッセルは急速に日の陰ってくるオアシスの1遇に座った。彼は無意識に両手に一ぱいの砂をすくい上げた。さわやかな感じで今まで味わった事の無い重量だ。きめの細かい砂、ご婦人方の使う化粧品よりもっと細かい粒子。
すくい上げると指と指の間からさらさらとこぼれて落ちる。無生物の魂。この時代の詩人のカノンがその砂を表現した。『彼らは 何を訴たえるのか何かを囁くのか 』詩はこう結ばれている。
運転手がラッセルにコップを差し出した。水かと思って受け取ったラッセルは白い液体とそれにいっぱい入った細かい葉っぱを見た。それはこの地方の名物、アイランだった。
アイランは、ヨーグルト・ドリンク。地方によって若干の違いはあるが、セントラルのヨーグルト・ドリンクとの最大の違いは砂糖味ではなく塩味だということである。砂漠地帯の飲料として、ビタミンも塩分も取れ見た目をすずやかなアイランほどふさわしい飲み物はない。 百科事典より。
あと30分も走ればノリスの街に着くと運転手が自分もアイランを飲みながら言った。