金属中毒

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16歳、14歳、12歳Housaku1028

2008-02-11 14:00:23 | 鋼の錬金術師
Housaku1028

16歳、14歳、12歳


「余計な事を考えずに、現場で指揮を取るタイプです。頭だけでなく足で考える。それにあの男の精神は誰にも買収できません」
東方司令部時代に、階級の低いハボックに重要な現場を任せた事について、上からいやみを言われたときにマスタングが答えた言葉。



 ハボックは緑陰荘にいた。雇い人2人はここから徒歩10分のアパートの中に待たせている。
(犯人はまだアメストリスを出ていないはずだ。)
ハボックは5番街の情報網を使い、ここ数日の海洋地帯の天候を調べた。それによると大型の低気圧がのさばり、海は荒れまくり、大型船すら足止めされている。シン人はエドを生かして連れて帰る必要があるはずだ。そして今のエドの体力から考えて沙漠越えは不可能だ。
 偶然の荒天にハボックは感謝する。アメストリス人の彼は、神様とやらに祈った事はない。だが、今回だけは
御伽噺に聞いた海の神さん、シードラゴンとやらに感謝した。
 そして、手がかりがもう一つ。それは意外な線からの情報だった。セントラルの高級店が並ぶ通りの高級玩具屋でちょっとしたルール違反があった。ある職人の手作りチェスが本来の売値の100倍で横流しされた。買ったのはマダム・ペルルの執事。この職人は頑固者で年に1点しか製作しない。そのチェスはこまの1つ1つが異なった木で作られていて、チェス盤にこまを置くときとても心地よい音がする。さらに慣れてくると一つ一つのこまの音を聞き分けられるようになる。
〈この話より少し後にこのチェスセットを使った目隠しチェスでずるをする子供が出るが、それはまた後に語ろう〉
この職人のチェスセットはプレミアムが付いているので、玩具店の店員の横流しはたまにある。だが、100倍とはなんとも気前のいい話だ。この情報は黒い瞳の男が売りつけてきた。5番街に出入りする情報屋と名乗る男は、田舎の夜空よりも暗く深い黒の瞳をしていた。
 そしてハボックにはもう一つ、誘拐犯が簡単にアメストリスを出ないのではないかという推測があった。
(大将が縮んでいる事を知っているのは、大佐と俺、それに中尉、銀坊と金坊、はたして犯人はエドワード・エルリックを誘拐したと確信できているのか?)
錬金術師はでたらめ人間、そんな風に言ったのは今は亡きヒューズ准将。その彼すらも想像もしなかったのではないか。蝶をさなぎに戻すように、人間を縮める錬金術があるとは。いまのエドワードは12歳ぐらいの外見をしている。いや、下手したら10歳ぐらいに間違われかねない。16歳のエドワードが10歳児の姿・・・とても信じられまい。
(もし俺が犯人の立場なら、絶対フレッチャーのほうをエドワード・エルリックと思うだろうな)
 エドの性格から考えると偽名を名乗ったりはすまい。むしろ堂々と「俺がエドワード・エルリックだ!文句あっか!!」
と怒鳴っているだろう。それが逆に犯人を困惑させているだろう。

 ハボックは東方時代にマスタングが公言したように、もともとは頭よりも足で考えるタイプだった。しかし、彼は文字通りの意味で足を奪われた。そのために彼は思考を変えた。いや、足で考える本質は同じだが、その足に自分以外の要素が入るのを受け入れるようになった。この変化は仕方なく行なわれたのだが、結果的に彼は自分の足だけで動いているときよりも広く物事を見るようになった。さらに物理的にも1メートル85センチの視点から、車椅子にしばられた1メートルの視点へ。この変化は彼の視界を変えた。そしていまハボックは以前なら見逃したかもしれない情報から、メッセージを読み取った。
(僕たちはまだアメストリスにいます。こういう高級品をも望めば与えられるほど大事にされています。つまり、こういう身分や地位、財力を持った者に捕まっています。助けに来てください)
これは連れ去られた金の子供たちからのメッセージ。
 マスタングが忙しい仕事の合間を縫って、子供たちと遊んだチェス、グラマン中将から贈られたチェスがこの職人の作品だった。