俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その41

2010年04月24日 23時24分37秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「だいたいね。宇宙宇宙って、宇宙が何だかわかっているの? 私たちが今ついているこの食卓だって、宇宙の一部じゃない。あんたたちの言う宇宙は、どこからどこまでなのよ、え?」
 スプーンを宙に振りかざしながらビビアンがまくし立てる。フォックスはシチュー皿からこわごわ顔を上げると、上目遣いに口に出した。
「……コーネリア空軍の規定では、高度100spメートル以上の高空を『宇宙』と呼ぶことになっていますよ」
「それだわよ」
 フォックスの鼻先に、スプーンが突きつけられる。
「100spメートル以上の空は宇宙。なぜ100spメートルなの? その理由は?」
「それはアレだ。空気がないからだな」
「そ。空気がないから、普通の飛行機じゃどうやっても、高度100spメートル以上には上がれない。飛行機の翼は、空気の中を通り抜けたときに揚力を生むためのものだから、空気のないところでは役に立たないの。けれど、飛行機で辿り着けない高さ……宇宙っていうのは、それだけのものなの?」
「まさか、学者さんの講義が始まるとは思わなかったな……」
 ビビアンの視線に刺しつらぬかれ、ペッピーはふたたびシチュー皿に顔を埋めた。
「宇宙は広大無辺の広がりです。この世界のすべてですよ」
 シチューの残りをかき集めながら、フォックスが言う。
「そう。なら言ってごらんなさい。この星の空をのぼって宇宙空間に出て、さらにどこまでも突き進んだなら、いったい何が見えるかを」
 フォックスは皿に残ったシチューをきれいにかき集め、口に運んでもぐもぐと咀嚼し、飲み込んだ。コップの中の水もゆっくりと飲み干し、ナプキンで口の周りを拭き終えると、おもむろに口を開いた。
「まず」
「うん」
「まず、パペトゥーンの地表が見えるでしょうね。それが離れるごとに丸みを帯びて、ついにはエメラルドにほの光る球体になる。紺碧の海面と翠緑色の大地。その上をたなびく雲が覆っている。美しい星です」
「そうね。それから?」
「コーネリアの蒼い海の煌めきと、カタリナの赤茶けた地表が見えるでしょう。その二つの球体に、恒星ライラットの陽光が照射されて、惑星の背中に大きな影を作っています。その影の中で、たいていの住人はベッドに潜りこんで眠りこけている」
「なるほど、星の背中にできた影が夜か。うまいことを言うな」
 ペッピーが感心したように言う。皿の中のシチューは無くなっていた。ビビアンはすこし微笑む。
「まだまだよ。ライラット系の外まで飛んでゆくの。その先には何があるの?」

「ファルコとの出会い」その40

2010年04月24日 23時19分24秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「ライラットの神話。オレもむかし聞いたことがあります」
「そうだろうさ。コーネリアの歴史……いや、アニマノイドの歴史以前から伝わる話だものな」
「それはつまり、我々はいずれ宇宙へと出てゆく宿命を背負っていたということになりませんか。地上から去っていった神を追って、いつかは自分たちも天上に旅するのだという……。宇宙への憧れが、遠い先祖から我々に受け継がれてきたんだ。この宇宙時代は、まさに、その神話の続きなのかもしれません」
「なんとね。フォックス、おまえさんがそんなにロマンを語る男だったとは知らなかったな」
「宇宙を飛んでいると、不思議な感覚に包まれることがあるんです。オレはここに来るはずだった。遠い昔から、それは決まっていた。そのために膨大な年月をかけて、オレ以前の誰かが道を作ってくれたんだという感覚。生まれ育った星を離れて、機体なしには生きられない真空に浮かんでいるのに、不自然なことをしているとは思わない。まるで、赤く染まった夕焼け空を見ながら、自分のねぐらを目指して飛んでいるような安心感なんです」
 むう、という唸り声が食卓の上にひねり出された。
「フォックス、それは。その感覚には、ワシも覚えがある。宇宙を飛ぶ恐怖を乗り越えるための高揚が、そう感じさせるのかと思っていたが」
「ペッピーも、感じたことがあるのか? もしかして、父さんも? いや、宇宙を飛んでいるものは、みんな……」
「そこまで!」
 ビビアンの声が、フォックスとペッピーの宇宙談義をかき消した。
「戦闘機乗り同士だけで盛り上がって話し込んで、ビビアン・ヘア手製のシチューを冷ましてしまう気? このまま話を進めていたら、『宇宙がオレ達を呼んでいるんだ』なんて結論にしちゃうんでしょ? 全くオトコってのは。このシチューの中のニンジンもジャガイモも、みんな土の中からとれたものなのよ。宇宙で野菜がとれますかっての。宇宙に呼ばれたかったら、空気なしでも生きられる体になってからにすることね。けれどその前に、お皿の中を空にしてしまうの!」
 顔を見合わせた二人が、ヒソヒソと言葉を交わす。
「いったい何を怒っとるんだ。うちのかみさんは」
「わからないよ。オレに聞かれても」
「いいから。お食べなさい」
 食卓の向こうから発される圧力に負けて、二人は無言でシチューを口に運び始めた。