ニューズウィーク日本版にこんな記事が。
日本ではいまだに日本製品の輸出を吹聴する記事などを見かけますが、アメリカでは以下のように捉えているということですね。
まぁ、日本企業も当地で旨くいっている企業は、やはり現地にあわせていますけど。
ファッションから自動車、健康関連商品まで、外国ブランドが中国特有の美意識や消費心理に配慮した商品作りに目覚めた
[2010年11月 3日号掲載]
派手に買い物を楽しむ生活なんて、先進諸国では今や時代遅れかもしれない。だが中国では高級品ビジネスが花盛り。富裕層の好みもこれまで以上にうるさくなってきている。
ルイ・ヴィトンの旅行カバンやフェンディのハンドバッグを買うにしても、ニューヨークやパリで手に入るようなものではもはや満足できない。金の有り余った中国の消費者は、自分たちの好みやニーズに合わせて作られた贅沢品を求めているのだ。
フランスの高級ブランドのエルメスは先頃、「上下(シャンシア)」という中国向け新ブランドのブティックを上海にオープンさせた。ここで扱われているのは色とりどりのスカーフといった、いかにもエルメスらしい商品ではない。
例えば明朝風デザインの椅子や、薄くてきゃしゃな陶器。急須の形など、中国伝統のデザインから着想を得たアクセサリー。素材も紫檀や漆、カシミヤ など、中国産の高級品を使用している。店にはオープン初日から多くの客が詰め掛け、大きな話題を呼んでいる。これには他の欧米ブランドも無関心ではいられ ない。
コカ・コーラからプロクター・アンド・ギャンブルまで、欧米の多くの多国籍企業は長年にわたり、世界最大の人口を擁する中国でひと山当てようとも くろんできた。しかし実際はトップブランドであっても、驚くほど伸び悩んでいるという例が少なくない。理由としては、中国が今も(欧米と比べれば)貧しい ことや、貯蓄率が高いことなどが挙げられる。
その上、多くのブランドは既存の商品をそのまま中国市場に持ち込んで売ろうとした。パッケージに並ぶ文字を漢字に置き換えるだけで、中国の消費者に合わせた商品を作ろうという考えはほとんどなかったのだ。
「つい最近まで『欧米で開発して中国に出荷する』というのが(欧米企業の)姿勢だった」と語るのは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のシニアパートナーで、中国の消費事情に詳しいヒューバート・シュイだ。「だからうまくいかなかった」
さすがに企業も遅まきながら、このことを理解し始めた。金融危機以降、先進国の高級品市場が低迷を続ける一方で、中国は世界第3位の消費市場にな ろうとしている。経営コンサルティング会社のマッキンゼーによれば、中国の消費市場の規模は25年までに2兆3000億ドルになるという。
新車やテレビの販売台数では既に世界一、パソコンでは世界第2位につけている。ジュエリー(前年比で25%増)や化粧品(同20%)、高級車(同50%)といった分野でも急成長が続いている。
「金融危機後の世界の経済成長の主役交代は、誰も予想できなかったほど劇的だった」と、マッキンゼー上海支社のユバル・アッツモンは言う。「今では多くの外国企業の間で、中国を主力市場として扱わなければならないとの認識が広がっている」
かといって、エルメスのように中国人の美意識をなぞることが、中国市場で物を売る際に必ず必要かと言えばそうではない。大事なのは、中国の消費者が実際に何を求めているかをもっと注意深く掘り下げることだ。
最近では、多くの企業が中国人のニーズに着目した商品を売り出している。BMWはパワフルなM3の中国向け限定車「タイガー」を投入。今年の干支である寅にちなんで名付けられたこの車、カラーリングも派手なオレンジと黒だ。
低価格だけでは売れない
フランスのファッションブランドのクロエは、人気のバッグ「マーシー」の中国限定版(色は中国でおめでたいとされる赤)を発売する。リーバイスは 今後増えていくであろう中流層の消費者向けに「デニゼン」というジーンズの新ブランドを立ち上げた。中国人向けに、欧米よりもスリムなデザインを採用して いる。
欧米の企業はあれこれ手を尽くして、中国市場をいかに重視しているかを消費者にアピールしようとしている。上海にあるアップルの直営店では、「中国では客が常に正しい」という文言が目立つ所に掲示されている。
店員たちはアップルストア名物の黒いTシャツではなく、「加州設計、為中国製造(カリフォルニア州で設計され、中国のために製造された)」と書か れた赤いTシャツを着ている。これはiPhoneなどのアップル製品の裏に刻印されている「アップルによりカリフォルニア州で設計され、中国で組み立てら れた」という英語表示のもじりだ。
多くの企業は中国市場向けの商品を開発・製造するにとどまらず、その商品を中国以外の国にも輸出するようになってきた。ヒューレット・パッカード (HP)は最近、雨や土ぼこりにも耐える「農村部向け」の安価なノートパソコンなどを生産する工場を重慶に建設。このノートパソコンの売れ行きは好調で、 HPは他の新興国への展開も計画している。また、ポルシェは新型セダンを世界に先駆けて中国で発売した。
もちろん、中国向けの製品を作ったからといって売れるとは限らない。ほかの市場との違いを見落としたせいで、つまずく大手企業は数多い。例えば中 国では手頃な価格のブランドが受ける一方、ステータスシンボルとして欧米の製品を買う人も多い。「エブリデー・ロー・プライス」のスローガンを掲げた米小 売り大手ウォルマートが苦戦しているのはそのせいだ。
どこに出店するかを決めるのも難しい。外国への関心が高い富裕層は、国外旅行で欧米の高級ブランドの製品を買い込む。ラルフ・ローレンやルイ・ 美トンといったブランドは当初、沿海部の大都市に出店したが、売れ行きがいいのは重慶や大連といったややマイナーな都市の店舗のほうだった。
今どきのニーズに目配り
難問は山積しているものの、手応えを感じ始めた企業も多い。中国の消費支出はこの2年、前年比15%増を続けている。甘やかされて育った一人っ子世代(貯蓄より使うほうに慣れた人々)が次々と大人の仲間入りをするにつれ、消費支出は伸び続けると大半の専門家はみている。
欧米ブランドの製品にならいくらでも金を払うという中流層が増えるにつれ、健康関連商品の分野も大きな成長が見込まれている。その背景には、中国企業より確かな製品を手掛ける欧米企業への強い信頼感がある。
「中国らしさを取り入れた外国の高級ブランドの食品や、美や健康に関する製品を作れば大儲けできるだろう」と、BCGのシュイは言う。化粧品ブランドのエスティローダーやランコムがいい例で、中国市場を念頭に商品開発をしたり、別の化粧品ブランドを買収したりしている。
成功の秘訣はやはり欧米らしさを大事にしつつ、中国人のニーズにもバランスよく目配りすることだろう。金持ちの中国人は明朝風デザインの椅子や国 産陶磁器に食指を動かす一方、ピザハットにも足を運ぶ(中国のピザハットは上質な食器や白いテーブルクロス、一流の美術品をそろえたデート向きのレストラ ンだ)。
「プロジェクトの打ち上げのときは、フォーシーズンズホテルやリッツといった一流どころで好きなものを食べていいよ、とうちのチームの人間には言っ ている」と、上海に本拠を置くCMRコンサルティング社のショーン・レーン社長は言う。「でも、みんないつもピザハットを選ぶんだ」
贅沢さを醸し出すのは必ずしも価格ではない。重要なのは「どう認識されているか」ということのようだ。.
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2010/11/post-1834.php?page=2