イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

運命の街、プリエゴ・デ・コルドバ

2007-01-08 13:03:51 | アンダルシア

 私は、アンダルシア大好き!などと言っているわりに、コルドバやグラナダしか知らなかった。カリフの街道ルートがあることは雑誌の特集で知っていたものの、日本語版のガイドブックもなく、時ばかりが過ぎていた。
 その年、私は何をやってもうまくいかなくて、良かれと思ったことも裏目に出るといた具合であった。考えることすら苦痛になり、スペイン行きの航空券と着いた日の宿だけ予約して、マドリードへ行った。文字通り、スペインに逃げたのだ。
 バスや電車での移動も怖くて、プエルタ・デ・ソルの旅行代理店に飛び込み、いくつかの国内線のチケットを予約した。疲れ果て、いつもは楽しめるドキドキを楽しめない状況だった。たまたまマドリードに住んでいる人と会う約束をしていたので、とにかく急いでチケットを取った。人間疲れているとろくなことを考えない。その人に、「自分が頼って行った」と思われたくなかった。今思うと、つまらないことで散財したと苦笑い。
 さて、その人の疑問。「君はなぜ、イスラームなスペイン旅をしないんだ?」私は素直に「行き方が判らないんです」と答えた。「そう。じゃあ、カステージョのある良い街があるから行ってごらん」と、一つの街への行き方を教えてくれた。
 
 コルドバからバスに乗るのは初めてではないのに、とてもドキドキした。何しろ気がついたらグラナダだったでは元もこもない。
 比較的大きなバス停で降りた。私はとうとうカリフの街道の真ん中にある街に降り立ったのだ。

 荷物を置いて、散歩に出た。この町を代表するモニュメント、フォンテ・デ・ル・レイ(王の噴水)は、お伽の国のような家並みのリオ通りの突き当たりにある。
住宅街を歩いていくと聞こえてくる水音。1780年に作られた。ネプチューンとアムピトリテの戦車、そしてそれを取り囲む怪人や文様のついた139の口から水が落ちる。その後ろの壁面にあるフォンテ・デ・ラ・サルー(繁栄の噴水)はさらに古いものである。白いモニュメントは日の光に輝き、水の蒼さに心癒される。
 静かなバロック建築の町並みをそぞろ歩く。博物館の中にある案内所の小父さんによれば、バロック建築が多いのは、この街が18世紀に繊維産業で財をなしたから。古代ローマ時代から人々が住み、ムーア人支配の時代には「メディナ・バイガ」と呼ばれた。レコンキスタ末期にキリスト教徒が奪取してからキリスト教とイスラム教国の境界線となった。そのため、支配者は頻繁に替わったという。
 私は機を織っているときの自分が、一番落ち着く。はるか昔のことを樋を持つと思い出す。懐かしい気持ちになり、何百年も前の私の踏む機の音が聞こえてくる。
 
 私はここで機を織っていた?
 特別な、押し寄せるような心の波はない。
 起き抜けに、ゆっくりと辺りを見回すような、ちょっとぼんやりした感じで街を歩く。

 カリフの街道での初めての夜、街では祭かパレードのようなものの音が外から聞こえてきた。中庭に面した窓を開くと満月。
 私は幼い頃の夢を思い出した。「満月の夜、アンダルシアで運命の人に出会う。」
 つるつるとした青い海のようなベットカバーにくるまって、私はその夜まんじりともせずにいた。
 出て行かなかったのだ。
 翌朝、街のどこにも祭やパレードの気配はなかった。昨夜のことを聞きたくとも、聞ける語学力はない。あれは何だったのだろう?幻聴だったのだろうか?
 
 来る予定もなく、なんの予備知識もなく立ち寄ったこの街。しかし、私は来るべくして来たのだ。かつて、多くのエジプト人が住んだというこの街。私は長いことエジプトを学び、何度も訪れているのにちっとも懐かしくないエジプト。そして、物心ついた時から還りたかったスペイン。それが、今ここで、やっと結びついた。私は、還ってきた。魂が、そうささやいている気がした。
 
 不思議なことはまだある。私にここへ行きなさいといった人も、魔法使いか仙人か?今は何処にいるのか定かでない。何処の誰かもわからない。
 願わくば、「私の魂の還る処を教えてくれてありがとう」とお伝えしたい。

 

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6 コメント

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ある力 (オルサ)
2007-01-08 23:56:18
あけましておめでとうございます。

aoiさんのお話を読みながら、千夜一夜物語、あるいはパウロ・コエーリョの「アルケミスト」を読んだ時と同じた、何者かに導かれていく不思議さを感じました。

あるきっかけが、自分をある場所に連れて行き、そこから何かが始まったり、求めているものに近づいたり、不思議な偶然が起きたり。世の中には、目に見えないある力(神なのか、宇宙なのか)が存在していると思わずにはいられない出来事が起きるものです。

私がブログを始めて、aoiさんの「イスラミック・ブルー」を読み始めたのも、その力が働いてのことでしょうか?
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オルサさん ()
2007-01-09 00:33:56
今年もどうぞよろしくお願いします。
長らくお休みしていたのは、祖父が他界したためでした。そんな訳で、年始のご挨拶は失礼しますね。

出会いとは必然と思っています。
どんな人とも会うべくして会ったと私は思っています。
相性が悪いと思った人とも、会うべくして会ったのだと思います。
そこにどんなドラマが隠されているのか?それを考えるのもまた楽しいです。(と、思うことにしています)
オルサ・ワールドは私の世界ととてもマッチしています。運命の人の一人ですよ!(笑)
だって、私の中には間違いなく千夜一夜物語とパウロ・コエーリョが、下敷きにあります。
今年もラブラブでいてくださいね
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Unknown (ぺけ)
2007-01-14 00:57:13
私もドタバタしていたので、この記事未だ読んでませんでした。遅ればせながら…

aoi さん、機を織るんですか?
私も昔習ったことがあるんだけど、前世には織ってなかったみたいで(笑)やめてしまいました。

魂の還るところが分かったなんて、素晴らしい経験ですね。夢というのは無意識の洞察や導きですよね?
私は未だに、どこが本当の居場所なのか、分からない…「ここじゃない」って気はするんだけど(笑)。



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ぺけさん (aoi)
2007-01-14 23:53:34
私の場合ペルー→南国のどこか→プリエゴ→バルセロナ→東京の順番に生まれ変わっているみたいなんですよ(笑)
あちこち行って見たけど「プリエゴがなんとなくしっくりする」と言っているんです。魂が。
面白いですね。(いや、変か)
学齢前の私は、赤い布をかぶって、カスタネットもって踊りまくり「お母さん、カスタネットがついた靴がほしい」と言っていたそうです。
母はタップシューズかと思ったそうですが、完全にフラメンコですよね?
前世はアンダルシアにいた感じしませんか?
今年は機織生活をメインにしたいと思っています。
縦糸張るのが面倒ですよね。
あごで使える弟子がほしいです(笑)

ぺけさんとも前世の因縁でまたお会いしたかしら?と勝手に再会を喜んでおります。(なんちゃって)
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前世は・・・ (elly)
2007-01-17 23:11:08
私もオルサさんと同じように、やはり『アルケミスト』の世界を思い浮かべました。そして、aoiさんが以前書かれた「アルハンブラ」と「旅人それは羊飼い」を読み直しました。いずれの文章を読んでいても不思議な浮遊感と夢幻の世界を感じさせてくれて、私もいますぐ魂の回帰への旅へと飛んでいきたくなります。aoiさんの文章、とにかく大好きです!
前世と言えば、ちょっと前に前世占いというのをやったのですが、私の前世は王族あるいは王とのこと。私に王の風格やカリスマ性があるとはとても思えませんが、それが本当なら果たして如何なる国の王だったのやら・・・。私はまだ魂の旅の途上に過ぎません。でも少なくとも、私も地中海地方が恋しくてたまりませんから、aoiさんと前世はご近所だったかも知れませんよね。
aoiさんが長らく関わってこられたエジプトと、そして心が請い求めてきたスペイン、様々な旅を重ねた末にその接点が見つかった、その時のドキドキと、そのドキドキ以上の安堵感が痛いほど伝わってきました。これからもaoiさんの繰り広げられる夢幻旅行が楽しみです。
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ellyさん (aoi)
2007-01-18 22:20:18
古い記事を紐解いてくださってありがとうございます。
『アルケミスト』は、私にとって、とても不思議な作品です。私のかつて歩いた道を描いているようです。
プリエゴに初めて行った時の私は、高揚感とかではなく、夢の中で客観的に自分を見ているようでした。そうですね。ellyさんがおっしゃるように安堵感だったのでしょう。
前世は王様ですか!
私は洗濯女です!そう確信しています。
袖すりあうも他生の縁と申します。
皆さんとも地中海でつながったところでご縁があって、今があるのだと思います。
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