ダウンタウンが好き。
エジプトらしい生活がそこにはあるから。
エジプトというとイスラーム教徒ばかりの国と思っている人も多いだろう。
イスラームが認めるキリスト教とユダヤ教もダウンタウンでは感じることができる。
残念ながらユダヤ教徒は絶滅寸前である。
シナゴーグの前には銃を持った警官や軍人がおり、破壊されないように守っているが、朽ちていく姿が痛々しい。
そこここに朽ちていくユダヤ教徒の建物がひっそりとたたずんでいる。
ある日のこと、イスラーム教徒とコプト教徒の大工が一緒に仕事していた。
イスラームの祈りの時間を知らせるアザーンと、教会の鐘の音が同時が聞こえてきた。
二人は手を止めて窓辺で紅茶を飲みながら、お互いの心地よい音に耳を傾けていた。
その後ろ姿と穏やかな空気に、世間を騒がすコロナやテロが醸し出す灰色で重たい雰囲気はなかった。