(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
私がキヌガサソウの花を初めて見たのは40数年前、山形県の月山だった。
確か羽黒ルートから山頂を経て湯殿山に下りる途中、幾つか見かけたが、
バカチョンカメラの時代なので画像は残っていない。
次に見たのは、1990年の白馬岳、本格的には白馬大雪渓を下った1993年(こちら)だった。
みごとな群生だった。
当時はアナログ一眼レフカメラの時代でリバーサルフィルムなので、
スキャナーで取り込んだ画像が数枚残っていた。
1993/07/17 白馬大雪渓下部のキヌガサソウ群生
1993/07/17 白馬大雪渓下部のキヌガサソウ
同時期、焼石岳や八幡平でも単品や小さな群生を見ていたが、
その後、私はしばらくの間、登山をしなくなったので、約20年間、ブランクが生じた。
2013年頃から登山を再開、キヌガサソウを見たのは2014年の八幡平だった。
そこでは県境のレストハウス駐車場から歩いて5~10分くらいの遊歩道脇に
ちっこいのが一輪だけ咲いていた。
2014/06/21 八幡平遊歩道脇で咲いていた小さな株。 2014/07/05 半月後の姿。花はピンク色に変わっていた。
ここでキヌガサソウのプロフィールを。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)の解説をほぼそのまま引用させて頂く。
『キヌガサソウ Kinugasa japonica ; Paris japonica
(Englerの体系ではユリ科に含められていたが、新分類体系APGⅢではシュロソウ科)
亜高山に生える多年草で、根茎は太く、茎は高さ30-80cm、葉は8-10個輪生し、
倒卵状楕円形または広披針形で長さ20-30cm、両面無毛で柄は無い。
花は6-8月、茎頂に一個つく。花柄は長さ3-8cm、花は径6cm内外、外花被片は7-9、ふつう8個、
長楕円形~広披針形、長さ3-4cm、花弁状で初めは黄白色であるが、のちにピンク色になり、終わりに淡緑色になる。
内花被片は外花被片と同数あるが、白色線形で長さ10-15mm、あまり目立たない。
雄蕊は花被片とほぼ同数で、長さもほぼ同じである。
葯は線形で長さ5-8mm、花糸とほぼ同長、花柱は8-10個、液果は球形で暗紫色に熟し、芳香と甘みが有って食べられる。
染色体数は2n=40。本州の特産である。
和名は衣笠草で、傘状に広がる葉を、昔、貴人にさしかけた衣笠にたとえたものといわれる。
本種は、古くはエンレイソウ属に入れられたこともある。
一種のみからなる日本に固有の属だが、ツクバネソウ属 Paris に入れられることもある。』
キヌガサソウの花のつくり
長い引用で恐縮。ここで言いたかったのは、次の二点。
(1)白い花弁のように見えるのは、「外花被片」=「萼」であり、花弁にあたる「内花被片」は線形で目立たない点。
このあたりは前作のシナノキンバイの花と似ている(こちら参照)。
(2)属のラテン名が和名の「キヌガサ」そのものである点。
これは日本に固有、特産の属、種類であることを示しているが、凄いことだ。
八幡平ではキヌガサソウは山頂に向かう遊歩道の脇で簡単に見られる。
真夏に訪ねたら、先のちっこい単品株のホンの少し先、
「謎の穴」とも称される小噴火口内のキヌガサソウ群生が咲き出していた。
がここは降りて見ることが出来ない
(この場所のすぐ向かいに、最近、有名になったドラゴンアイが有る)。
2014/07/22 謎の穴の群生地
2016年は、40数年前、初めてキヌガサソウを見た月山を再訪してみた。
2016/07/16 月山装束場の小群生
ここでは群生に近づけるが、残念、花は古くなっていた。
2016/07/16 月山装束場の単品。緑色に変わっていた。 キヌガサソウの分布マップ
大雑把なキヌガサソウの分布マップを作ってみた。
東北地方ではキヌガサソウの見られる山は限られている。
北限は青森県内に有るようだが、詳細は不明。
奥羽山系では八幡平と焼石岳で登山道が生育地を掠めているため、比較的見やすい。
しかし群生地と言えば、秋田山形の県境に聳える神室山だろう。
この山の群生地は日本最大(=世界最大)規模と報道されている。
ところがそこに至る道のりは東北でも有数の難関コースだ。
神室山は標高1365mとあまり高くないが、標高400m前後の山麓から自力、自足でテクテク登らなくてはならない。
標高差は約1000m。キヌガサソウ群生地は秋田側の西ノ又川を登り詰めた場所に有る。
標高は1290mくらいだが、登山口からのコースタイムは三時間超。
2016年の秋、試験的にこのコースを歩いてみたが、途中の渓谷沿いの道と胸突き八丁の登りはとてもしんどかった。
そのため、2017年の開花時期本番では、山形の有屋口から入山した。
こちらのルートには危険な箇所は無いが長い。
キヌガサソウ群生地に行くためには、一旦、1350m超の稜線まで駆け上がった後、
秋田側に少し降りなければならない。
そのため、登山口からは4時間くらいかかってしまう。
というわけで、足弱、不整脈持ちにはとてもしんどい登山だったが、
日本最大(=世界最大)のキヌガサソウ群生地を見ることが出来た。
2017/06/24 キヌガサソウ群生地 2017/06/24 群生地上部・窓くぐりから望む神室山
2017/06/24 日本最大(=世界最大)のキヌガサソウ群生地
この群生地は冒頭の白馬大雪渓に較べると、面積は明らかに狭かった。
しかしキヌガサソウの密度が濃く、生育本数は白馬を上回ると聞いた。
翌2018年は焼石岳の小群生地を訪ねてみた。
ここは神室山のように難儀しなくても生育地に達する。
と言っても、登山口から二時間強かかる。
2018/06/23 焼石岳の小群生地
2018/06/23 2018/06/23 かざぐるまのようなキヌガサソウ
ここで閑話休題。
キヌガサソウは花が大きく、鑑賞に堪えることから、園芸利用も試みられたようだが、
耐暑性が無いため、我が国の下界での栽培はかなり難しい。
だから山盗りすべきではない。
「野に置け蓮華草」ならぬ「山に置け衣笠草」だ。
以前、ヨーロッパの山野草グループfbに自生地の写真を投稿したところ、
今までに経験したことのないほど多数の「いいね!」と多言語によるコメントを頂いた。
夏季冷涼な彼の地では栽培が可能で、とても人気のある植物だと知る。
キヌガサソウは非常にユニークな草姿だが、ちょっと紛らわしい植物もある。
クルマバツクバネソウ Paris verticillata
葉は6-8枚輪生し、キヌガサソウによく似た草姿だが、花(外花被片)は緑色で通常4枚。
日本全国の他に中国やシベリアにも分布。山地の林下に生える多年草でけっして高山植物ではない。
東北ではあまり多くないが、姫神山の林内や真昼岳の稜線には豊富だった。
焼石岳ではキヌガサソウのすぐ近くで咲いており、実に紛らわしかった。
2021/05/26 クルマバツクバネソウ。姫神山にて。
2015/05/01 クルマバツクバネソウ。七座山にて。 2021/06/02 クルマバツクバネソウ。真昼岳にて。
2017/07/08 クルマバツクバネソウ。焼石岳にて。 2017/07/08 ツマトリソウ。焼石岳にて。
ツマトリソウ Trientalis europaea ; Lysimachia europaea
はサクラソウ科ツマトリソウ属、
キヌガサソウとは縁もゆかりも無い植物だが、花や草姿は不思議とよく似ている。
ただしサイズはとても小さく、間違えることはないと思う。
最後に、2019年に見た八幡平秋田側某所のキヌガサソウ群生。
2019/06/09 八幡平秋田側某所にて。
ここの群生地は神室山ほど数は多くないが、コンパクトにまとまっている。
自動車道から比較的近いせいか、よく盗掘されているとのこと。
よって生育地の詳細は伏せさせて頂く。
以上。
月山のキヌガサソウは以前と比べて少なくなりました。
前は牛首から山頂に向う道にもまったのが消えました。
残念です。
最近では八幡平で群生を見ました。
盗掘する人をもっと厳しく取り締まって欲しいと思いますね。
掘られた跡を見ると腹立たしく悲しくなってきます。
キヌガサソウはけっして下界では維持できない花なのに
どうして盗掘するんでしょうね。
ほんと悲しくなります。
この花は大きく派手なのに神聖な美しい花ですね。
若い同行者もこの花を見つけると必ず歓声を上げます。
北アルプスでは白馬岳の大雪渓が有名で花図鑑には白馬岳のそれがあがってますね。
白馬岳と雨飾山の隣、天狗原山~金山には群落を観られます。水芭蕉やサンカヨウと一緒にサクラソウなどと咲きますから、ここは隠れた花の名山と思っています。
私が忘れないのは、標高ゼロメートル富山海岸から立山3千メートルを登るというもの。時間切れで雄山に上れずに残念な思いで、室堂から弥陀ヶ原に下りました。そこにそのキヌガサソウの群生!!その残念な思いを払拭してくれたこと。
蝶ヶ岳、火打山~妙高間など山行の思い出にはキヌガサソウと共に・・ですね。
頸城の山々、立山、いずれも白馬と並び、憧れの山域であり、生きてるうちに是非行きたいエリアです。