自民党は8月26日、総裁選の日程について、9月17日告示、同29日投開票とすることを正式に決定した。これを受けて出馬を表明した岸田文雄氏が地元広島の議員や財界幹部らとの会合で菅義偉首相への対決姿勢を示した。
菅首相は再選に意欲を示しており、二階幹事長の他、安倍前首相、麻生副総理兼財務相も首相再選支持を表明しているが、本気で応援するか疑わしい。勘ぐるに、二階氏は菅首相と再選後の人事に関する何かしらの約束をしており、安倍氏や麻生氏とも同様と思われる。しかし、各派閥内の若手の議員から密室政治を非難する声が上がっており、一枚岩で賛同を得る可能性は低いようだ。
岸田氏はかねてから総裁への意欲を示しているが、安倍政権末期も安倍氏から禅譲を期待していた甘さがあるようでもあり、1年前の総裁選挙では見事に菅氏に敗れた。今回本当に総裁の座を狙うのであれば、安倍氏の支援など当てにすべきではなく、独自の路線を進めるべきだ。
安倍前総理の長期政権での様々な不祥事が明らかになっている。すなわち、森友・加計学園問題における公文書改竄、桜を見る会の私的利用、河合夫婦の選挙違反問題等、の真相を明らかにし、透明性の高い自民党としての再出発を公約に掲げるべきだ。
岸田氏は、河合夫婦の選挙違反では買収資金が自民党から1.5億円支給されたとして、二階幹事長を追求したが、そこに安倍首相の名前まで出ると追求は一気に萎んでしまった。岸田氏と安倍氏の親密さを熟知した二階氏の高等戦術と理解されるが、そこで怯むようでは二階氏に勝てない。
岸田氏は29日出馬宣言する際、党役員任期制限案に言及したが、二階幹事長の辞任要求であることは明らかであり、安倍、麻生両氏と二階氏との間にくさびを打ち込んだのだ。これに反応して、首相は先日30日に首相官邸で二階氏と会談し、次期衆院選の前に自民党役員人事の刷新を行い、二階幹事長を交代させる意向を伝えたとみられる。自民党内の特に若手議員の間の空気を読んだ戦略とも思われるが、岸田氏の出鼻を挫いたのだ。
総裁の座を巡る自民党内の権力争いは所詮はコップの中の嵐であり、勝手におやり下さいの感であるが、肝心なのは国内外の政治の方向だ。
岸田氏は29日、”来年の春までしっかりと見通せるような数十兆円規模の経済対策を早急に取りまとめるべきだ”と述べ、党総裁選での公約に掲げる考えを示した。コロナ後の経済復活は重要な案件ではあるが、現在、日本は未曾有の1千兆円を超える借金を抱えており、コロナ騒動で一層膨らむ勢いである。
財政健全化に対しては2025年度までに基礎的財政収支を黒字化する政府目標については”大きな流れをしっかり考えていかなくてはならない”と一般論を言うに留め、本気度は伺えない。異次元金融緩和で大赤字を加速したのは安倍前首相であるが、安倍氏への遠慮が垣間見える。岸田氏は安倍氏と縁を切る覚悟で、将来の日本の方向を示して頂きたい。
2021.09.01(犬賀 大好ー742)