防衛省は、大学、独立行政法人の研究機関や企業等における独創的で、将来有望な研究を育成するために、安全保障技術研究推進制度を実施している。
28年度新規採用テーマの例として、”海棲生物の高速泳動に倣う水中移動体の高速化バブルコーティング” がある。これは水中移動体の摩擦抵抗の低減を目指すものである。例えばタンカーでは、船にかかる全抵抗のうち摩擦抵抗が約7割を占めているそうだ。近年の原油価格高騰により、船舶の省エネルギー化が求められており、水中でも空気層を保持することを可能とする塗膜を表層に形成する新しい技術の開発を目的にしている。実現されれば産業界には大いに役立つ技術である。
この研究テーマは、兵器とは全く関係ない船舶の効率的走行のように思われ、なぜ防衛省がこんなところに資金を出すのか不思議な気もするが、即潜水艦の高性能化に資すると分かれば納得がいく。このように、ほとんどの技術はその使われ方により、兵器になったり民生用になったりする。
2017年度の防衛省予算案に、大学などの研究機関を対象にした研究費制度の費用として、概算要求通り、110億円が盛り込まれた。15年度が3億円、16年度が6億円であったことを考えると、異常と言える伸びだ。自民党の国防部会が科学技術の促進が技術的な優位につながる、とし大幅増額を要求していたのに、応えたのだ。
一方、国の厳しい財政状態を背景に大学への運営費交付金は16 年度の国立大学等の法人化以降、27 年度までほぼ毎年度減少し、約1500億円削減されてしまったそうだ。28 年度の国立大学法人運営費交付金は、国立 86 大学・4研究機構(90 法人)に総額1兆 945 億円であるので、ほぼ7%減少したことになる。教職員の人件費や基礎的な教育研究環境の整備費は、運営費交付金でなければ確保できず、大学における任期付き教員と称する派遣社員化や研究費の削減となって現れているようだ。
大学の研究費を削減する一方で、防衛省の研究補助金を増すとは、あからさまな軍事研究への誘導だ。これに対する対策は、各大学によって異なる。日本学術会議でも軍事と学術を巡り議論が続いているが、テーマ内容で区別するのは土台無理であり、恐らく研究者個人に ”モラルを守れ” 程度の抽象的なガイドラインを設ける程度が結論となろう。
一方では、技術の進歩は著しく、民生品の性能が向上し軍需品の差がどんどん無くなっている。代表的な巡航ミサイルであるトマホークは、設定された目標に向かって地形を判別しつつ超低空飛行で突っ込む誘導ミサイルである。このミサイルにソニー製の民生用のテレビカメラが使用されていることが、一時期話題になった。テレビカメラは誰でも容易に手に入れることが可能だ。その使用目的まで制限して販売することは不可能だ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新たに開発した高さ9メートル50センチほどの世界最小クラスのミニロケットは、今年1月15日打ち上げに失敗したが、コストを抑えるため家電製品などに使われるものと同じ民生用の電子部品が使用され、また地上との通信用機器にも使われていたとのことだ。こうした民生用の部品使用が失敗に関係しているかどうか不明ではあるが、何度かの試行錯誤を繰り返せば、この技術もいづれは確立される。今後民生用部品がどんどん増え小型衛星の打ち上げが安価になれば、災害予想等で大いに社会に役立つ。この技術は当然兵器にも適用される筈である。
技術は ”両刃の剣” である。民需用が軍需用に適用されるのは、止められない。研究者は、少しでも多くの研究資金が必要であるが、個人的には兵器の開発などしたくはない筈だ。テーマが民需用であれば心のわだかまりは低減する。この感覚麻痺に政府の狙いはあるのだろう。
2017.01.25(犬賀 大好-306)
28年度新規採用テーマの例として、”海棲生物の高速泳動に倣う水中移動体の高速化バブルコーティング” がある。これは水中移動体の摩擦抵抗の低減を目指すものである。例えばタンカーでは、船にかかる全抵抗のうち摩擦抵抗が約7割を占めているそうだ。近年の原油価格高騰により、船舶の省エネルギー化が求められており、水中でも空気層を保持することを可能とする塗膜を表層に形成する新しい技術の開発を目的にしている。実現されれば産業界には大いに役立つ技術である。
この研究テーマは、兵器とは全く関係ない船舶の効率的走行のように思われ、なぜ防衛省がこんなところに資金を出すのか不思議な気もするが、即潜水艦の高性能化に資すると分かれば納得がいく。このように、ほとんどの技術はその使われ方により、兵器になったり民生用になったりする。
2017年度の防衛省予算案に、大学などの研究機関を対象にした研究費制度の費用として、概算要求通り、110億円が盛り込まれた。15年度が3億円、16年度が6億円であったことを考えると、異常と言える伸びだ。自民党の国防部会が科学技術の促進が技術的な優位につながる、とし大幅増額を要求していたのに、応えたのだ。
一方、国の厳しい財政状態を背景に大学への運営費交付金は16 年度の国立大学等の法人化以降、27 年度までほぼ毎年度減少し、約1500億円削減されてしまったそうだ。28 年度の国立大学法人運営費交付金は、国立 86 大学・4研究機構(90 法人)に総額1兆 945 億円であるので、ほぼ7%減少したことになる。教職員の人件費や基礎的な教育研究環境の整備費は、運営費交付金でなければ確保できず、大学における任期付き教員と称する派遣社員化や研究費の削減となって現れているようだ。
大学の研究費を削減する一方で、防衛省の研究補助金を増すとは、あからさまな軍事研究への誘導だ。これに対する対策は、各大学によって異なる。日本学術会議でも軍事と学術を巡り議論が続いているが、テーマ内容で区別するのは土台無理であり、恐らく研究者個人に ”モラルを守れ” 程度の抽象的なガイドラインを設ける程度が結論となろう。
一方では、技術の進歩は著しく、民生品の性能が向上し軍需品の差がどんどん無くなっている。代表的な巡航ミサイルであるトマホークは、設定された目標に向かって地形を判別しつつ超低空飛行で突っ込む誘導ミサイルである。このミサイルにソニー製の民生用のテレビカメラが使用されていることが、一時期話題になった。テレビカメラは誰でも容易に手に入れることが可能だ。その使用目的まで制限して販売することは不可能だ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新たに開発した高さ9メートル50センチほどの世界最小クラスのミニロケットは、今年1月15日打ち上げに失敗したが、コストを抑えるため家電製品などに使われるものと同じ民生用の電子部品が使用され、また地上との通信用機器にも使われていたとのことだ。こうした民生用の部品使用が失敗に関係しているかどうか不明ではあるが、何度かの試行錯誤を繰り返せば、この技術もいづれは確立される。今後民生用部品がどんどん増え小型衛星の打ち上げが安価になれば、災害予想等で大いに社会に役立つ。この技術は当然兵器にも適用される筈である。
技術は ”両刃の剣” である。民需用が軍需用に適用されるのは、止められない。研究者は、少しでも多くの研究資金が必要であるが、個人的には兵器の開発などしたくはない筈だ。テーマが民需用であれば心のわだかまりは低減する。この感覚麻痺に政府の狙いはあるのだろう。
2017.01.25(犬賀 大好-306)