菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

点線の人生、実線の人生、無線の人生。   『マイレージ、マイライフ』

2010年03月27日 00時02分11秒 | 映画(公開映画)
 
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第122回。



「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『マイレージ、マイライフ』
 



あなたのそのパンパンのキャリーバッグには何が詰まっているの?
それは、雲でいっぱいかもしれない。


監督・脚本は、ジェイソン・ライトマン。
彼は、『ジュノ』で終わりから始まる青春ラブコメディというオリジナルな映画を成立させた32歳の若き天才。
この3作目で彼は、クラシックのようなソフィスケイト・コメディを、ネガ像かのように反転させ、現代的なものを十分につかまえて描き出した。

すでに巨匠の風格さえ漂い、キャメロン・クロウのような早熟さをかもし出している。
なにしろ、デビューから3作連続ゴールデングローブ賞で作品賞ノミネートを果たしている。




直接の対話をしながらも、そこに感触の無い、ふれあい、人間関係の希薄さを一筋縄ではいかぬその曖昧な複雑さを、シンプルに胸に届かせる。
移動したことを示す数字であるマイレージをただ積み上げていく。
この宙に浮いている人生はなんだろう?
原題は『Up in the air』で、“まだ決まってない”、“後回し”、“宙に浮いたまま”という意味だそう。
いわば、『宙ぶらりん』の状態のこと。


いわゆる説明の実景にまでその映像コンセプトは行き届いている。
ただのデータのように世界が眼下に広がっている。

映画はライアンの主観という語り口を透徹し、起こる出来事はみな彼の目を通して描かれていきます。

台本の構成は言わずもがな、場所を説明する実景のカット(どの街も同じようにしかみえない)にまで及んでいます。
この物語では、悪い(良い)状況に良い(悪い)ことが起きる。
最高の女性出会いと最低の女性との出会い、自分の技術に対してネットのそれは陳腐、最高の講演の時に最低の出来事・・・。
それが彼の主観だからこそ、最悪と最高が逆転していく。
それによって、コメディでありながら、受け止め方を複雑にしていく。
世界はシンプルじゃないと、シンプルに語っていく。



ジョージ・クルーニーの完熟の演技が見られる、最後の好演のシーンの素晴らしい演技は、講演で何度も話したシナリオを語りながら、内面がまるで手にとるように分かる極上の演技だ。

その旅の同行者二人の女優がため息をつくほどに素晴らしい。
ヴェラ・ファミーガは錨のようであり、落ち着きを持った好演。
いわゆる美人て感じでもないのに、オーディションで、「ジョージ・クルーニーがひと目で惚れる女性を演じられる?」と問われ、「もちろん」と答えたそう。
しかも、実際に画面で、ああいう男がひと目で惚れそうな雰囲気を出してるんですもの。
アナ・ケンドリックは猫のようであり、きらめきを持って、目を離せなくさせる。
賢いのに、若さでそれを制御出来てない女性をいきいきと息づかせる。

2009年の米アカデミー賞にて、主演男優賞にジョージ・クルーニーが、助演女優賞に、アナ・ケンドリックとヴェラ・ファーミガがノミネートしています。

俳優陣は他にも素晴らしい仕事をしています。
登場するリストラされる人々の多くが職業俳優ではなく実際にリストラされた本物の人々で、ドキュメント要素もなんなく取り込んでみせる。


ロックオペラのように、新旧のジャンル融合させた素晴らしいアンサンブルを奏でてくれる。

これは人によって喜劇であり、悲劇でもありえる物語。
ただ1人の現代の20世紀人の心の旅が刻まれている。
そして、彼のツアーの同行者は、古めかしい現代人だった。

女性への畏怖もそこには刻まれている。
男は、地図に印をつけ、運転し、合理的に道を行く。
しかし、目的地は多すぎて、ただ到着を繰り返すだけだ。
彼女らは目的地は、明確。それは行って戻る場所、家。


目的地はいくらでもある。
飛行機は今日も世界中へ飛んでいる。
だが、あなたがそこに行く目的が無ければ、ソレはただの点に過ぎない。


道ではなく空路のロードムービー。
空の道には、何の道しるべも足跡も残らない。
でも、飛行機雲が一筋浮かんでいる。
それを誰かが見上げている。
希望とは、そういうものかもしれない。


これぞ、新品の古典。
極上の映画の語りを堪能させてくれます。
心にシートベルトをして観ないと、エアポケットでガクンと行ったら、宙に浮いてしまいますぜ。

 



おまけ。
シネ・シャンテに初日に行ったのですが、なんと連休中のほとんどの席が埋まっていました。
おかげで3日ほど待つ羽目に。
でも、それは嬉しいこと。
いい映画の匂いが、みなに香ってくれることを願う。

















 

おまけ。
今、アメリカの映画には、アメリカン・ニュー・センチュリー・シネマなどと新しい呼び名をつけなければならぬような、21世紀の映画の波があるのだ。
今回のアカデミー作品賞ノミネートの『ハート・ロッカーー』、『第9地区』、『マイレージ、マイライフ』はまさにそういう映画だった。



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