菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

人でなくさせる、人であろうとする。  『ニューオーダー』

2022年06月18日 00時00分29秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2070回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 


『ニューオーダー』

 

 

 

格差が極限まで拡大した近未来、メキシコで市民暴動の最中、元使用人の危機にお嬢様が町へ向かうサスペンス。

 

監督・脚本は、『父の秘密』、『或る終焉』のミシェル・フランコ。

 

出演は、ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド、ディエゴ・ボネータ、モニカ・デル・カルメン。

 

 

物語。

富豪一家が暮らす優雅な大豪邸で娘のマリアンとアランの結婚パーティが盛大に開かれ、政財界の有力者たちが顔を揃えていた。
しかし、町では格差拡大に怒った市民が暴動を越していた。
その余波が結婚式場にも届こうとしていた。
結婚式場に、かつての使用人ロランドが妻の緊急手術の費用の借金を申し出てくる。
マリアンは、町に混乱が広がっているとは知らずに夫妻を助けようと使用人クリスティンと動き始める。

 

 

出演。

ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド (マリアン/新婦)

パトリシア・ベルナル (ピラー/母)
ダリオ・ヤズベック・ベルナル (アラン/新郎)
ディエゴ・ボネータ (ダニエル/兄)

フェルナンド・クアウトレ (クリスティン/使用人)
モニカ・デル・カルメン (マルタ/クリスティンの母)
エリヒオ・メレンデス (ロランド/元使用人)

アナリー・カステロ (イザベラ)
セバシティアン・シルベッティ (パブロ)

 

 

スタッフ。

製作:ミシェル・フランコ、クリスティーナ・ベラスコ、エレンディラ・ヌニェス・ラリオス
製作総指揮:ロレンソ・ビガス、ディエゴ・ボネータ、セシリア・フランコ、シャルル・バルト

撮影:イヴ・カペ
プロダクションデザイン:クラウディオ・ラミレズ・カステロ
美術監督:ジョア・リマ・バレラ 
編集:オスカル・フィゲロア・ハラ、ミシェル・フランコ

 

 

『ニューオーダー』を鑑賞。
近未来メキシコ、格差による市民暴動の中、お嬢様が使用人を助けようと町へ向かうサスペンス。
視点変更型群像劇で、状況を描き、その中の人物へとじょじょに寄り添い、次の状況へと視点を移していく。物語の中心は事件。実際の事件を追う再現ドラマなどのスタイルに近い。ドラマティックな状況を冷徹かつ冷静な描写で語るミシェル・フランコが、いつもと違い事件に焦点を当てる。そのせいで、やや個性は薄れてしまったか。
まるで、実話のようなリアルさは慈悲もなく、究極の状況での人間の狂気と正気を見せる。
これぞ悲劇。ひたすら最悪が訪れる。
だが、そこに嘘がないように思える。それこそが、送り手の狙いだろう。
状況次第で人はいとも容易に人間性を手渡す。集団ヒステリー状態になれば理性がぶっ飛ぶように。
この凡庸な悪こそ。どんな映画の魅力的かつ強大な力をもつ恐ろしい敵よりも恐ろしい。それはそれが決して滅びないから。状況に飲み込まれた人間の当たり前としての悪だからだ。
ここで描かれているのは、たぶん過去も今もこれからもどこかで行われる悪意の姿だ。そこに善意が、ヒーローが勝つことはほぼない。状況が変われば、それが鳴りを潜めるだけだ。それは生き残るためと言う必然、必要悪として存在しているから。
当然、それでも善意もまた生き続ける。悪意に殺され奈ながらわずかでも滅びずに。
ナイアン・ゴンサレス・ノルビンドはその悪意に向き合う善意を全身全霊をもって体現している。拍手を贈りたい。わずかなシーンで出演するキャストすべてが生きている存在感を示しており、埋没感が素晴らしい。それ自体が映画のテーマとさえ言えるのだから。
この映画の鑑賞感ははっきり言って最悪の部類だろう。だが、それはキャスト・スタッフの献身によって、極上の最悪となっている。
そこには容赦なさ、悪意の真実がある。そして、それもまた視点を変えれば、送り手の善意でもあるのだ。
感情に支配された人間の生の姿だから。
それは、たぶん隠されて見ることができない姿。
そして、安全なところで見ている受け手へ雷を落とす。
イヴ・カペの凝っているカメラワークはドラマチックなはずなのに、その場の状況にあだ在り続ける。
編集のさりげなさがそれを支えている。
事実ではないがゆえに、濃縮されたリアルの恥部、隠されてきた出来事を暴くように。
市民生活が悪化するということは、悪を当たり前にすることなのだと突きつける。
善意が間違っており、悪意が正しいとする、まさにディストピア。それは、現代の世界の現実でもある。
ヒロインに真っ赤な服を着せ、丁寧に画面では血を避けている辺りに興奮してほしくないという意図が見える。
金という数字、名前をはぎ取る数字、行動を限定する数字、数字が人を人でなくする。
緑は、人でなくなった冷血を示しつつ、お金や軍や麻薬の隠喩でもあろう。
新しいがいいとは限らない。
覚悟して見よ。
人の血も支配に染まる緑作。


 

 

おまけ。

原題は、『NUEVO ORDEN』。
英語題は、『NEW ORDER』。
『新体制』。

ポスターでは反転文字がところどころにあり、新体制へ否やひっくりかえる人間性が示されているのであろう。

 

2020年の作品。

 

製作国:メキシコ / フランス
上映時間:86分
映倫:PG12

 

配給:クロックワークス  

 

 

冒頭に出てくる絵画は、『死者だけが戦争の終わりを知る』。

 

ニューオーダー の映画情報 - Yahoo!映画

New Order : メキシコ映画 界の気鋭のミシェル・フランコ監督が、持てる者と持たざる者の格差が開きすぎた新たな階級社会のいま、世界の国々で現実に起こり得る革命の恐怖を描いて、ヴェネツィア国際 映画祭の審査員大賞に選ばれた直近未来のディストピア・スリラー「ニュー ...

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大寺眞輔@新文芸坐シネマテーク/オンライン映画塾 on Twitter:

New Order (2020) - Filmaffinity

New Order (2020) - IMDb

 

 

ネタバレ。

暴力シーンはなるべく映らないように演出されている。
人が支配されていく状況だけが描かれていく。
ジャンルとしては悲劇といえるが、人間性を奪う否劇と記したくなる。
政治的なSFではあるのだが、ほぼ現代劇で現実に起きているといえることだけが描かれる。つまり、つくり手はあくまでドラマというくくりに収めている。
実際、南米では、何十年も独裁政治を強いている国や麻薬カルテルが支配している地域があり、描かれたようなことより酷いことが行われている。
いくつかのドキュメンタリーでは、それが描かれている。
それを描くことで制作者が命に危機にさらされることがあり、実話にしないことで、それらからの攻撃を躱し、世界に現実を訴えているといえる。

なんでこんな後味の悪い映画をつくるなんてと非難することは出来ない。

緑は、お金も表している。世界的にはお札のインクは緑が多いので。
もちろん、メキシコの旗は緑。

赤は善なる人間性を示す。

市民はどうやら富裕層の静で、この国は格差が広が多っと思わされているが、実際は政治や支配者の腐敗や教育の不足であることが彼らの王道でわかる。
高い志などはなく、軍人もまたその場の状況に流されていく。
行動制限がされ、クーデーターが成功し、市民の生活はさらに酷くなる。
つまり、革命だと思ってした行動はただの扇動された無知をなる、最悪へと向かうものだった。

紹介で使われているあらすじでは、すでにそのクーデータの部分が説明されていることが多い。
軍や別の力ある支配者による体制が覆り、さらなる政治の悪化を今の日本人で想像できる人は少ないのかもしれない。
ある意味で、ゆっくりと飼いならされている国民だから。

 

現代アートから象徴的に映画は始まり、ここで描かれる複雑さの構造や意味を探れというガイドにもなっている。
無知を示すために、押し入った市民たちは飾られている現代アートをスプレーで汚し、高級家具を破壊する。貴金属は奪うのであれば、アートや家具も同様の価値を持つのに気づいていない。
奪っているはずが、自分たちが理性を奪われていることに気づいていないことが分
これは、教育がされていないことも示している。
そして、それは支配しやすい市民であることの象徴でもある。

 

管理施設で出てくる建物は、現実に管理施設だそう。

 

メキシコでは、2014年に麻薬組織によって、警察学校の生徒43名が地下に閉じ込められ、行方不明となった事件などもあったそうで、そこを引用しているそう。

 

 

 

 

 

 

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