菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

一歩間違えば。  『崖っぷちの男』

2012年07月18日 00時00分56秒 | 映画(公開映画)
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第324回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『崖っぷちの男』






ニューヨークのホテルの21階の縁でくり広げられるソリッドシチュエーション・サスペンス。

ニューヨークの一角を舞台に動けないサスペンスと言えば、『フォーンブース』がある、そして、動きまくると言えば、『ダイハード3』がある。
この映画は、ある意味では、この二つの要素が入っている。
飛び降り自殺する男が、実は・・・というと動きのない窮屈な映画を想像するが、この映画実に躍動感がと開放感がある。

それはなぜか?


シナリオは、10年近く前に書かれ、なんども映画化されかけて、動かなかった作品で、似た作品の先駆けだった模様。
もちろん、現代版にされている。
飛び降り自殺や高いところで高いところで行われる、どうもアメリカでは不況を抱えてからは需要なテーマらしく、『ブリッジ』というある飛び降り自殺が多い橋を取り上げたドキュメンタリーや、『リーサルウェポン』の名シーン、ある違法な綱渡りをする男を取り上げた『マン・オン・ザ・ワイヤー』や、世界一の高所でのサスペンスシーンが売りの『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』、高所の金持ちから金を奪い返そうとする『ペントハウス』なんてのもある。
高いところを飛び回る『スパイダーマン』のホームグラウンドでもあり、あの『キングコング』がいる。
摩天楼とも書くニューヨークには落ちるという題材が似合うのかもしれない。
もちろん、富裕層VS貧困層のメタファーというよりは直喩に近い状態での意味もあるだろう。
そこから飛び降りることは、金や権力への抗議や批判となるし、地位や資産を失うという文字通りに意味になる。
手がけたのはパブロ・F・フェンヤヴェシュで、これが劇場作品のデビュー作。



ここで、監督が選んだ、サム・ワーシントンという選択は素晴らしい。
彼は、動けない重みを演じさせると光る男なのだ。
『アバター』では足を悪くして、車椅子の男。
『タイアンの戦い』では、漁師で船の上。
『ターミネーター4』でもサイボーグという重い男を演じていた。
その重さは躍動する瞬間を期待させるのだ。
それが独特のエネルギーとして、映画を支配する。

しかも、実際のルーズベルトホテルの縁でほとんどのシーンを撮影したらしく、その緊張感は演技ではないかもしれない。


脇には、しなやかさのあるキャストを配置したのも活きている。
動きまくる弟役にはジェイミー・ベル、交渉人には、エリザベス・バンクスとエド・バーンズ、元相棒には、アンソニー・マッキー、弟の恋人役にはジェネシス・ロドリゲス、ニュ^スレポーターにキーラセジウィック、と見た目からも細身で、ネコ科の動物かドーベルマンのような俳優が起用されている。
これを締めるボスに、獲物に飛びかかる直前のような緊張感のあるエド・ハリス。
この鉄壁の布陣。


監督は、劇映画デビューであるデンマーク出身のアスガー・レス。
ハイチのギャングのドキュメンタリーで頭角を表して、ハリウッドでの2本目。
この地名の並びだけ見ても、躍動を感じさせるではないか。

撮影場所を実際のホテルにし、実際の縁で撮影し、その屋上にセットを組むなど尋常ではないこだわりもある。
飛び降り自殺仕掛けている主人公を見守るやじ馬は、実際のひと歩とも多く混じっているそうで、監督自身もカメラを回して、その生の空気感を収めているそう。
なにより、大胆な省略や強引な展開や憂鬱にならない描写の品の良さ、V美女にハンサム、ちらっとしたエロスや緊張感を削いでも交わされる軽口を活かしたり、生粋のニューヨーカーをキャスティングしたり、これでもかと詰め込んでの徹底した映画作りに、娯楽映画と向き合おうという覚悟を感じる。


それを支えるのは、撮影監督のポール・キャmロン。
これまでに、『コラテラル』、『ソードフィッシュ』、『デジャヴ』と躍動感あるサスペンスで手腕を発揮してきている。
合成も少しあるかもしれないが、ロケ地の空気感、スタントもリアルにとらえていて、手に汗を握らせる。





飛び降り自殺という陰鬱さ、緊張感から、突き抜けた開放感へとつながる心地よさがたまらない。


ストーリーの明かし方、キャスティングが上手く、どんどん主人公の味方になって、ワクワクしっぱなしになる。
おいおいと突っ込みたい箇所も少なくないが、サービス精神の旺盛さに喝采を送ってしまう快作。











おまけ。
実際のルーズベルトホテルはかなり古い建物だったので、屋上にセットを組むのは難しい要求だった。
しかも、屋上のセットは全部20トンにもなったようで、上がるり人には持ち込み物の重量制限をかけたそう。(スカイボックスと呼ばれたそう)
利便性で、そこにセットを組んだわけではなく、その場の空気感をいかに捉えようとしたかが伝わる。
この方向性を実現できる力こそ、映画に力を与える。
安全に無理をすること、作るときに人間の可能性を感じさせることが映画の魅力の一面であることを思い出せてくれる。
高所、危険なところで撮影することは、まさにそういう意志がなければ出来ない。

実際には、3つのセットが用意されたらしい。
上記の室内と室外を切れ目なく撮影できるセット。
別場所の駐車場に作られたスタント用のセット。
室内部分のみのセット、そしてだ。
高所恐怖症のサム・ワーシントンは、まずホテルの外壁で撮影を行い、恐怖感を理解してから、セットでの撮影に入ったとのこと。







実際のホテルの縁(35cmだったそう)で撮影したということは、撮影者たちはその外に出ていたということで、彼らの緊張もカメラに影響している。
ただ、暑さ寒さがカメラに写りにくいように、この緊張感も撮影したから写るものではない。
そこには、脚本、演出、演技、撮影など掛け合わせが重要で、ここでも、取材のヘリコプターを近づけることで、強烈な風でその恐怖感を写すということをやっている。



原題の『MAN ON THE LEDGE』は警察用で飛び降り自殺を試みようとしてる事件の隠語で、警察関係の事件であることも示している。



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