で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2258回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『aftersun アフターサン』
少女ソフィが、離婚後は離れて暮らす大好きな父とトルコでバカンスを過ごすドラマ。
出演は、父親役に本作の演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど高い評価を受けたポール・メスカル、娘役に本作がスクリーン・デビューの新人フランキー・コリオ。
監督・脚本は、シャーロット・ウェルズ。
スコットランド出身の俊英。
長編デビュー作ながら、第75回カンヌ国際映画祭の批評家週間で話題を集め、数々の映画賞を賑わす活躍で世界的に注目された。
物語。
少し前トルコ。
11歳のソフィは、夏休みに離れて暮らしていた31歳の父カラムとトルコのリゾート地へ行く。カラムが手に入れたビデオカメラを向け合い、ふたりは親密な時間を過ごす。
現在イギリス。
父と同じ歳に成長したソフィは、懐かしい映像の中から父の記憶を呼び起こしている。
出演。
ポール・メスカル (カラム/父)
フランキー・コリオ (11歳のソフィ/娘)
セリア・ロールソン=ホール (31歳のソフィ)
サリー・メッサム (ベリンダ)
ブルックリン・トールソン (マイケル)
スパイク・ファーム (オリー)
ハリー・ペルディオス (トビー)
スタッフ。
製作:アデル・ロマンスキー、エイミー・ジャクソン、バリー・ジェンキンズ、マーク・セリアク
製作総指揮:エヴァ・イエーツ、リジー・フランク、キーラン・ハニガン、ティム・ヘディントン、リア・ブーマン
撮影:グレゴリー・オーケ
プロダクションデザイン:ビルール・トゥラン
衣装デザイン:フランク・ギャラチャー
編集:ブレア・マクレンドン
音楽:オリヴァー・コーツ
『aftersun アフターサン』を鑑賞。
少し前、少女ソフィが離れて暮らす大好きな父とトルコで過ごしたことを回想するドラマ。
ひと夏の出来ごとを3つのイメージで描き出す。
ある種、映像詩に近いが、映像的な語りを仕掛けていて、勘がいいとけっこう冒頭で気づきます。
あらすじとかの情報を入れずに見た場合、かなり独特で、観客を信じている語り。
冒頭で「ああ、こういう語りなのね」と入っていけるかどうかで、前半の印象は変わる。なので、二度見ると、まるで違った風に見える映画と言われるのだろう。
ある意味ではメッセージは細く深くまっすぐ。映画的でアート映画好みには受け取り、入り込みやすいポイントがある。
低予算の作品ながら、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートを果たした注目作。
監督・脚本は、今作で一気に注目の的となったスコットランド出身のシャーロット・ウェルズ。長編デビュー作ながら、数々の映画賞を賑わした。すでに独自の映画作法を脚本と映像においても生み出している。見るということを多面的につなげる映画的文法は新しい。家庭用ビデオになっているが、この方法論で映像撮影が当たり前の原題を捕らえることも出来るだろうし、彼女がそれを次の作品でやるかもしれない。新しい筆をもたらしたのだ。
自然なビデオ撮影と美しいイメージ撮影の二つを滑らかに撮影したのは、グレゴリー・オーケだが、俳優部や監督なども撮影してるのかもしれない。
それに肉と骨になるのが二人の俳優。31歳の父役のポール・メスカルと11歳の娘役で本作がスクリーン・デビューの新人フランキー・コリオ。
ポール・メスカルは、現在最先端のにじみ出る内面を見せないままのに表に出しつつ、人のイメージと映像に取られた実像と幾つものイメージを演じ分ける。なおかつ自然さもドラマチックも出し、という現代映像演技の神髄を成し遂げている。
それをフランキー・コリオがちょうど難しくなる年頃の女子として愛憎というコインの裏表、幼さと大人げの成長の困惑のところまで醸し出してくれる。
この二人によって、もう一つの視点が鮮やかに浮かび上がる。それは、冒頭から示されていた視点。それは明確に中盤ちょっと前に示される。そこからは少し謎解き的な映像でだけ伝えてくる構造が見えてくる。
それにより、すべての映像の意味が見えてくる。
説明は言葉ではうっすらとしかされない。この作家は映画の力を信じている。観客の知性を信じているし、それこそ人の心のに沁みる方法だと悟っている。
ここに頭か心が入って行かないとただの夏の出来事とイメージの羅列に見えるだろう。まぁそれが分かってもこういうものに全く反応しない人もいる。
どこかセラピーのような映画でもある。痛みを直に暴き出すのではなく、あなたの個悪露がたどり着くまで導くような。
その痛みの奥にあるものは、いくつか提示される。
フランス映画的であり、そこを発展させたイギリス映画ならではの発展形な感じでもある。
プロデューサーは、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス。そういう部分もあるのかもしれない。
原題は『AFTERSUN』で、これは『日焼け薬』ではある。日焼けの炎症を沈める薬だそう。直訳して「太陽の後」とも取れる。それは、夜か、青春の後か、輝きの後か。
それは映画の余韻、見終えた後に物語がじょじょに赤身は痛みになり、肌を黒くするのか。
積み重ねの記憶が映画。
映像は残り、痛みは膨らむカーペット作。
おまけ。
『日焼け薬』。
上映時間:映倫:G
ややネタバレ。
シャーロット・ウェルズの近いテーマの以前の短編映画。
Tuesday (2015) | Charlotte Wells
https://www.youtube.com/watch?v=zOKlhXstmVU
ネタバレ。
シャーロット・ウェルズの実体験を基にしているそうです。
『ベニスに死す』と重なる。いうなれば、『トルコに死す』。
ちょうど、『TAR ター』にも『ベニスに死す』が出てきた。
映画慣れしていると、ブラウン管に映る姿と、巻き戻される映像で、ああこれは未来から過去を思い出しているのか、しかも失われたものを、とうすうす気づく。
しかも、映像は父でストップするので、父が失われたか、凄く複雑に、この時に父の心が止まったから、娘が失われたかと勘づく。
新しい映像文法は、過去の映像の中の自分が見ている世界を切り返すと、それは今のソフィが見る父の記憶と今だからわかるイメージ。
現在の自分が過去の映像の自分を見ている、その過去と現在が見ているイメージ(記憶と今だから見える姿)の二重の父を見るが、その奥にはさらにまたズレた記憶が映っている(その中にはソフィーもいるので、自分の視点で対象を挟み込んでいる)という時間と視点をキュビズム的に映し出している。
父は鬱を抱えていて、自殺しようと何度かするが、それはソフィの大人になる過程で得てきたイメージが加わっている。
今作に父の主観はないはず。
お金に困っているのに、娘のために出そうとする姿に金と愛を繋げてみせる。
子供にもわかる生活の苦労、だが、心の苦労と見えていなかった。
31歳のソフィーは同性愛者だが、そこを大きくは取り上げない。
ソフィーのひと夏の恋らしきものも描かれるが、そおには、大人の女性への憧憬のように見えて、性的なもあったのかもしれないという行動が描かれる。
だが、父もどうやらそういった傾向があったことも少し描かれる。
両性愛者なのかな。
だが、それが彼の心を落としていたか不明。
20年前のトルコ絨毯をソフィはまだ愛用している。
折れ目の入ったポスターのデザインが秀逸。