で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2441回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『PERFECT DAYS』
東京渋谷で公衆トイレ清掃員の独身中年男が、繰り返す日々の悲喜を拭くドラマ。
カンヌ国際映画祭では日本人としては19年ぶりの主演男優賞、キリスト教関連の団体から人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞を受賞し、第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。
物語。
現代日本東京。
初老も近い平山は、墨田区に住み、渋谷区の公衆トイレの清掃員として働いている。
彼の淡々とルーティンを繰り返す日々は、常に新鮮な小さな喜びに満ちている。
昔から聴き続けているカセットテープで聴く音楽、休日のたびに買う古本の文庫、公園で採った植物栽培、フィルムカメラで撮る影の写真を楽しむ。
ある日、思いがけない事件が彼のルーティンを崩す。
監督と共同脚本は、『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などのドイツの名匠ヴィム・ベンダース。
挿入される白黒映像は、妻のドナータ・ヴェンダースの手によるもの。
主演とエグゼクティブプロデューサーは、役所広司。
第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、役所が日本人俳優としては『誰も知らない』の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。
共演は、新人の中野有紗、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和。
東京都渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する<THE TOKYO TOILET プロジェクト>の一環としての短編映画制作依頼をヴィム・ベンダースが承諾して準備中に構想が広がり、長編映画となった。
ヴィム・ヴェンダースといえば、その静謐的でありながらハードボイルドな作風で知られるドイツの名匠。小津安二郎の信奉者でも知られ、小津モチーフの『東京画』というドキュメンタリーも撮っている。
なので、一見今作も小津的な世界だと受け取りそうだが、案外に小津的なのは空気感に過ぎず、小津よりもさらにハードボイルドな裏町の関係が描かれる。
探偵行為は行わないが、その端緒が紡がれていく。
実際、そこには諦観の歓びが描かれる。
差は黄のシステムから外れて、システムのエッジのギリギリで生きていく。
そこにあるのは、よく言えば清貧だが、言ってしまえば雑草の暮らしだ。
そう、ここにあるのは、ハードボイルドの成れの果てだ。だが、その心は青々と茂り、根を伸ばしている。
雑草を抜いたことがある者なら、その根の強さと長さに感嘆したことがあるだろう。
それは、自分の逸れがちな心根と反りが合わない社会とをなんとか折り合いを付けつつ、生活を続けるという反乱だ。
悩ましいことに、彼の生活圏はおいらの暮らしのすぐそばだ。
ノヴまで徒歩で30秒。彼の住まいも、かつての住まいのすぐ近くだったりする。
昔、悪臭を放った隅田川のほとりだ。
川辺から高い高速道路を通り、渋い谷にへ降りていく。
ハードボイルドは固茹で玉子。
それは、一つの卵の中の黄身と白身が交じり合わないのに一心同体の玉になる玉子の形でもある。
白身はしがらみともいえる社会に見える。
黄身は我としたい。
そんないろんな固茹で玉子が、この物語では一時、袖を擦り合う。
カセットテープは二つの輪。
自転車は二つの輪。
トラックは四つの輪。
カメラのレンズは見た目は一つ。でも、中でいくつかの輪が筒に入っている。
缶コーヒーは筒。
トイレは大きな筒だ。
輪と筒で、心を交わすこともあれば、金を交じり合わせることもあれば、〇と✖を交えることもある。
血や影や排泄物を流しながら、汚れた川もいつか海に流れる。
あちらに行くのはいつの日か。
ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
水は海へと流れ、雲になり、雨として降るサークル。
完璧な輪だ。
それでも、川辺に緑は茂り、木漏れ日が射す一本。
原題も、『PERFECT DAYS』。
『完璧な日々』。
製作年:2023年
製作国:日本、ドイツ
124分
映倫:G
スタッフ。
監督:ヴィム・ヴェンダース
製作:柳井康治
プロデュース:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
エグゼクティブプロデューサー:役所広司
プロデューサー:國枝礼子、ケイコ・オリビア・トミナガ、矢花宏太、大桑仁、小林祐介
キャスティングディレクター:元川益暢
脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
撮影:フランツ・ラスティグ
美術:桑島十和子
スタイリング:伊賀大介
ヘアメイク:勇見勝彦
編集:トニ・フロッシュハマー
配給:ビターズ・エンド
出演。
役所広司 (平山)
柄本時生 (タカシ)
中野有紗 (ニコ)
アオイヤマダ (アヤ)
麻生祐未 (ケイコ)
石川さゆり (ママ)
田中泯 (ホームレス)
三浦友和 (友山)
水間ロン (酔っ払いのサラリーマン)
原田文明 (神主)
三浦俊輔 (番台)
古川がん (銭湯の老人)
深沢敦 (かっちゃん)
田村泰二郎 (常連客)
甲本雅裕 (居酒屋の店主)
松居大悟 (レコードショップの店員)
高橋侃 (レコードショップの客)
さいとうなり (レコードショップの客)
大下ヒロト (レコードショップの客)
研ナオコ (野良猫と遊ぶ女性)
長井短 (公園のOL)
牧口元美 (地元の年配男性)
松井功 (地元の年配男性)
吉田葵 (でらちゃん)
柴田元幸 (写真屋の主人)
犬山イヌコ (古本屋の店主)
モロ師岡 (バーの常連客)
あがた森魚 (バーの常連客)
殿内虹風 (女子高校生)
片桐はいり (電話の声)
芹澤興人 (タクシー運転手)
松金よね子 (駐車場係員)
安藤玉恵 (佐藤)
渋谷そらじ (子供)
嶋崎希祐 (迷子の子供)
川崎ゆり子 (母親)
田中都子 (竹ぼうきの婦人)
『PERFECT DAYS』役所広司、演技を語る<ロングver>
https://www.youtube.com/watch?v=tjatjdrlMI4
【第1弾】「平山という男は、どこから来たのか」ヴィム・ヴェンダース監督ロングインタビュー_『PERFECT DAYS』
https://www.youtube.com/watch?v=3rtwl8xN_PE
そういえば、独逸とは独りを逸れると書くなぁ。