で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2435回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『密輸 1970』
海に投げ込まれた生活必需品を拾って生計を立てる海女と海の男たちが巨額の金塊を巡っての騙し合いを繰り広げていく海洋犯罪活劇。
実話に着想を得て描かれたフィクション。
物語。
1970年代半ば韓国。
漁村クンチョンでは海が化学工場の廃棄物で汚染され、海女たちは失業の危機に瀕していた。
リーダーのジンスクは仲間たちの生活を守るため、海底から密輸品を引きあげる仕事を請け負うことに。
しかし、作業中に税関の摘発に遭ってジンスクは逮捕され、親友チュンジャだけが現場から逃亡する。
二年後、ソウルからクンチョンに戻ってきたチュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸の儲け話を持ちかける。
密輸王クォン、チンピラのドリ、税関のジャンチュンらさまざまな者たちの思惑が入り乱れるなか、海女たちは人生の再起をかけた大勝負に身を投じる。
主演は、『国家が破産する日』のキム・ヘス、『完璧な他人』のヨム・ジョンア。
監督(共同脚本も)は、『モガディシュ 脱出までの14日間』のリュ・スンワン。
2023年の第44回青龍映画賞で最優秀作品賞など4冠に輝いた。
韓国娯楽映画作家の剛腕リュ・スンワンが、今度は事件ではなく実際の状況を基にフィクションとしてつくり上げた韓国濃度高めの逸品。
かなり凝った脚本で、現在世界の娯楽家画の中でも、稀有な、ミステリーや騙し系ではないのにテクニカル娯楽技法が存分に投入されている。
そして、映画史でも難しいとされる水中アクションに新機軸を持ち込んだ点も特筆したい。
水中ってアクションがゆっくりになるし撮るのが大変なので心地よくするには特殊能力もの(『アクアマン』とか)になりがちなのです。鮫ものもアクションといううよりはスリラーやサスペンスでアクションは弱めのことが多い。だから、水上アクションでさえ大変なのですよ。
そこを海女という女性アクションにアドバンテージを与え、考えまくった振付とカメラワークで見事なつくり上がり。
こういうジャンルもので映画史的な挑戦をしている作品はつくり手の意欲を感じられるし、内容に反映されるので単純い出来だけでない見ごたえがありますね。大好物です。
脚本も、二人の主巡行に、重要人物を多めに配置し、思惑がぐねぐねする頭脳戦が配置されていて、物語に入り込ませるのです。前半と後半のがらっと動く構成には、前半は戸惑う人もいるでしょうけど。ある意味では、ドラマの前後編二部作、小説の上下巻、レコードのA面B面の裏返しのワクワクがある。まったく、おいらはたとえが古いね。でもまぁ、今作70年代が舞台ですから。この70年代的な空気感も入れ込んでいるのが巧いし、やはり隣国なので、どこかノスタルジーを感じるのよね。
今作は、音楽の使い方も70年代的にしていて、画面づくりもそうなっている。
そうすることで、人物の考え方や行動に受け入れやすくなるよね。だって、見るのは現代人なので。
まず現代人を当時にタイムトラベルさせるってのはあるけど、現代から70年代を見ることで見える別の感覚を見せようとしているのが、大事。
そうそう、今作、俳優の演技やアクションやカメラワークは現代的なんです。ある意味、違うものをうまくまとめこむんでいる。これぞ、監督の手腕。
主演のキム・ヘスとヨム・ジョンアの海女二人のキャラの描き分けを代表にキャラづくりがいいのよね。特にチョ・インソンとチョン・ドウォンのコンビがいい。今までは主役と悪役の間にいるこういう立場ってキャラって、コメディリリーフになりがちでしたが、最近はどっちにも揺れる人間味を出せる複雑さを纏うようになってきてるのいいですよね。脇役の活かし方がさすが。そして、ちゃんと悪役が怖い。これホント大事。だって、娯楽作なんだもの。記号的でも記号的でなくてもね。イヤや怖いを感じさせて欲しいよね。
真面目なこというと、当時の軍事政権のがんじがらめ感を広いはずの海の身動き取れない感がうまく重ね合わせられている。
とにかく、ホテルバトルとクライマックスの海バトルに痺れますぜ。
鮫も出ますよ。
海は広いようで狭いけど、それでも大きいなら大らかに楽しもうな一本。
原題:『밀수』(『密輸』)
英語題:『Smuggler』(『密輸業者』)
製作年:2023年
製作国:韓国
上映時間:129分
スタッフ。
Producer:キム・ガンイ
監督:リュ・スンワン
脚本:リュ・スンワン、キム・ジョンヨン、チェ・チャウォン
脚色:イ・ソクスル、イ・ソンファン
助監督:チェ・チャウォン
撮影:チェ・ヨンファン (CGK)
照明] イ・ジェヒョク (CGK)
編集:イ・ガンヒ
音楽:チャン・ギハ
美術:イ・フギョン
武術:ユ・サンソプ、チャン・ハンスン
出演。
キム・ヘス (チョ・チュンジャ 海女 勝負師 )
ヨム・ジョンア (オム・ジンスク 海女のリーダー)
チョ・インソン (クォン上士(軍曹) 密輸王)
パク・チョンミン (チャン・ドリ チンピラ)
キム・ジョンス (イ・チャンチュン 税関係長)
コ・ミンシ (コ・オップン チョンノ(鍾路)タバン(喫茶店)のママ)
キム・ジェファ (テジ(豚)オンマ(母さん) 海女)
パク・チュンミョン (ヤングムネ 海女)
パク・キョンヘ (トクスニ 海女)
チュ・ボビ (オクチョギ(がめつい人) 海女)
カク・チンソク (カルゴリ(鉤) チャン・ドリの手下)
チョン・ドウォン (エック(片目) クォン上士(軍曹)の手下)
シン・ミンジェ (ハッバジ(綿入れのズボン) チャン・ドリの手下)
キム・チュンギル (ピンダリ チャン・ドリの手下)
イ・ジョンス (タルゴニ チャン・ドリの手下)
アン・セホ (キム・スボク 税関員)
チェ・ジョンウォン (オム船長 メンリョン(猛龍)号の船長 オム・ジンスクの父)
キム・ウォネ (ブローカー叔父)
キム・ギョンドク (オム・ジング 猛龍の船員 オム・ジンスクの弟)
ユン・ビョンヒ (ソヘアン(西海岸) 頭目)
キム・ギチョン (キム船長 テソン号)
受賞歴。
<2023年>
第59回 大鐘賞映画祭 監督賞、撮影賞
第24回 釜山映画評論家協会賞 女子演技者賞 (コ・ミンシ)
第32回 釜日映画賞 男優助演賞 (キム・ジョンス)、女優助演賞 (コ・ミンシ)
今年の女性映画人賞 新人演技賞 (コ・ミンシ)
第44回 青龍映画賞 最優秀作品賞、男優助演賞 (チョ・インソン)、新人女優賞 (コ・ミンシ)、音楽賞 (チャン・ギハ)、人気スター賞 (チョ・インソン)
第28回 春史国際映画祭 女優主演賞 (キム・ヘス)、男優助演賞 (キム・ジョンス)、新人女優賞 (コ・ミンシ)
第10回 韓国映画制作家協会賞 男優助演賞 (キム・ジョンス)、女優助演賞 (コ・ミンシ)
第43回 韓国映画評論家協会賞 技術賞 (イ・フギョン)、映評10選、男優助演賞 (キム・ジョンス)、音楽賞 (チャン・ギハ)
<2024年>
第60回 百想芸術大賞 男子助演賞 (キム・ジョンス)