詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

コール

2014年11月19日 | 
実家に電話したけど留守だった
コール音が鳴り続け
返ってくるはずの父の声が聞えない
電話を切って
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何かが引っ掛かっている
どこかの町のどこかの家に灯った明かり
探り当てようのない場所の記憶のように

文字を目で追いながら心は別の凹凸をなぞっている
このでっぱりは父が電話に出なかったこと?
でもそれはもっとずっと奥にある気掛かりを
黒ずんだレバーの中から引きずり出す
きっかけにすぎないという気がする
そしてそもそも私はそれを
いつもどこかに隠し持っていたのかもしれない
自覚せぬままそれを
いつも手探りしていたのかもしれない

何をしてもどこかうわの空で
捉えられないものの影を追いかけている
何度数えてもいくつだったのかこころもとなく
整理できない紙が散らばり
指は鍵盤から滑り落ちる
それほどまでに一貫として
私を引きとめるものは何?

掛けたはずのコール音は
こちらに向かって
鳴り続ける

朝まで
不吉な予感のように
木々を躍らせていた雨風がふいにやみ
光が伸びてきて
顎を持ち上げるようそっと促す
浸潤しているように
空が深いブルーになる
雲と同じ素材でできた月まで浮んでいる
白い絵の具で擦った絵筆の跡
尾の長い鳥が楽しげに枝から枝へ
かわりばんこに仮縫いしていく
マンション群が隠していた輪郭を
徐々に露わにしていく

こんなときにはふと
呼んでいたものの在り処が
見えるような気がする
ただ眩しさに手をかざして
太陽が見えないように
目を凝らしても
遠ざかっていく後ろ姿を
つかまえられない

というのは
本の重みでぬくもった部屋にいる私が
そう思いたいだけのことで
せっかちな父とのんびり屋の母の間で
行ったり来たりしていた上目遣いの子どもが
炭のようにずっと
燃え残っているだけなのかもしれない
それとも・・・

しばらく時間が経ってから
再び電話をかけてみた
コール音のあとすぐに
いつもと同じ元気な声が聞えてきた
そばにあったのに気付かなかった
薄く開いた深く黒い裂け目に
紙切れが落ちていく気配があった
メモは読み取れなかった

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