時事解説「ディストピア」

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学問はアメリカ帝国主義に対抗できるのか?(中村元哉「香港「雨傘運動」の歴史射程」感想)

2015-03-26 23:49:38 | 中国(反共批判)
ここ何年間か、アメリカ現代政治(国際政治)を敵国からの視点で捉えなおすことに専念してきた。

その作業のなか、日々痛感するのが日本の学問がアメリカ帝国主義の対抗手段とならないばかりか、
逆にその手助けをしているような部分も少なからずあるということである。

もちろん、全てが全て、おかしいわけではない。
むしろ、アメリカ研究においては反米が主流だと思われる。

もともと私は親米主義者であり、アメリカの社会運動をテーマに、
同国の市民運動のパワーについて好意的に評価していた時期がある。
(実際、今でもアメリカのNPOは各自治体のお粗末な福祉システムを補完する役割を担っている)

その時、先行研究において、どの研究者も揃いも揃ってアメリカを非難していることに閉口したものだ。

日本近現代史もまた、戦後間もなく戦前弾圧を受けたマルクス主義者たちが
中心となっただけあって、未だに、特に沖縄現代史において有意義な研究を輩出している。


南米史もまた、スペイン・イギリス・アメリカ帝国主義の犠牲となった最古の地域だけあって、
同地域の歴史をもとにして、現代まで続く植民地主義の詳細を克明に表したものが多くみられる。


このような研究が行われる一方で、保守的……とレッテルを貼ってしまうのもどうかと思うが、
むしろ欧米の帝国主義に大きく貢献するだろう研究が主流になっているような分野もある。


それが冷戦時、東側に位置した地域(ソ連、東欧、中国、北朝鮮)と
そして現在、列強が侵略を進めている地域(中東、アフリカ、中央アジア)の研究……と感じる。

あくまで印象論なので、さらに詳しく各分野の先行研究を読めば変わる気もするのだが、
少なくとも現在の日本で積極的にメディア(学術雑誌も含む)に出ている現代史研究者は、
アメリカ外交研究の見地から見ると、アメリカ政府が喜ぶ内容になっている。それは確かだ。

歴史学研究4月号に掲載の中村元哉氏の論文は、正直、かなりガッカリする出来だった。

もちろん、中村氏は現代中国の政治思想史が専攻らしいので、畑違いと言えばそれまでなのだが、
あの雨傘革命を中国国内の民主化運動の最先端に位置するものとみなす動き、
つまり、もともと存在した国内の民主主義思想の伝統を受け継いでいるとみなしたのは、
これは、あまりにも外部(列強)の関係を軽視した評価とは言えないだろうか?


20世紀後半において、アメリカ合衆国はゲリラやテロリストだけでなく、
現地の市民団体を教育、指導、誘導することで自国に有利な政府を「民主的に」誕生させる作戦を取り始めた。



それは21世紀に本格化し、カラー革命、アラブの春と呼ばれるものになった。
実際、これら民主的革命の指導団体はいずれも外国勢力の支援と指導を受けており、
政権を奪取した後は、宗主国に有利な政治を行い、結果として内政が蔑ろにされ、猛反発を受けている。
(リビアやイラクのように全く政情が安定していない地域も多い)


沖縄の基地問題をイメージしてくれると良い。
現地の民衆の生活が無視され宗主国に都合のよい政治が親米派の政治家によって行われている。


中国のアンプレラ革命もまた、手段はカラー革命と全く同じものであり、
ウクライナやエジプト、ベネズエラで起きたことが旧植民地の香港でも繰り返されていると
この件について少しでも資料を集めている者なら即座に看破できるはずだ。


ところが、氏はこのような側面を一応、軽く言及しながらも、瑣末なことと軽視(無視?)し、
同革命は中国の自由主義(この言葉の定義もまたあいまいだ)の系譜を辿るものだとして、
結果的に独裁国家中国への国内の良心的民衆の抵抗運動であるかのようにみなしている。


これは少なくとも中国政府側の言い分を読めば、違うと気づかされるのだが、
はなから独裁政府()の言い分は聞きたくないのか、冷静に事実だけを眺めれば、
むしろ非民主的な行動を行っているのは運動家のほうであることを認めない。


同氏は去年の『世界』(岩波書店の政治論評雑誌)でも、同様の評論を掲載したが、
実際、近年の岩波系知識人の反共左翼(反共が主軸であるため、反米を打ち出しながらも
結果的に中国、ロシア、北朝鮮、中東等においてアメリカを支持する連中のこと)、
特に和田春樹、酒井啓子、内藤正典を中心とした面々は日本政府に対して対抗するどころか、
その主張するところを見れば、むしろ支持するような意見を多く発表している。


私は常々、現代日本の右傾化は民衆が右傾化しているのではなくて、
左翼が右傾化しているのだ、だから心配なのだと語っている。


最後の砦となる事実の都、真実の番兵であるはずの学者が逆に事実の歪曲、
正確にいえば宗主国側の視点で物事を捉えているので肝心の部分についての指摘が欠落している。

これは大いに問題があるだろうし、実際、市民の中には、
この岩波の在り方に対して大きな疑問を投げかける者もいる。


今現在、岩波の経営状況は苦しいとのことだが、その原因の一部には同社の右傾化があるはずだ。