時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

こうしてプロパガンダは作られる ベネズエラ編

2015-03-18 00:06:25 | キューバ・ベネズエラ
ベネズエラは世界でも有数の反米・反新自由主義国家ですが、
その経済状況は決して良いものとは言えません。

国家収入のほとんどを石油の利益に依存するため、
石油の原価が値下がりすれば、それだけで大打撃を受けることになります。

これを利用して、アメリカやサウジアラビアは原油価格を操作し、
去年、ロシアやベネズエラなどの反米国家に対して強力な制裁を加えました。

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ベネズエラのマドゥロ大統領が改めて、
「アメリカは、石油を道具として利用している」として非難しました。


プレスTVによりますと、マドゥロ大統領は17日土曜、中国、ロシア、
OPEC・石油輸出国機構の5つの加盟国への歴訪を終えた後、ベネズエラの首都カラカスにおいて、
「アメリカは、石油を政治的な武器として悪用している」と語りました。



また、アメリカが石油を政治的な道具として利用することで、
政治的に対抗しようとしている国として、ロシア、イラン、ベネズエラを挙げ、
「アメリカは石油を道具として利用している」としました。


マドゥロ大統領のOPEC加盟国の歴訪の主な目的は、
原油価格を受容可能な価格に戻すことだったとされています。


ベネズエラはこの6ヶ月間、原油価格の下落が原因で国家収入の55%を失っていました。
昨年の6月以来、原油価格は50%以上下落しています。
なお、OPECは世界の産油量全体のおよそ40%を占めています。

http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/
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なお、この原油価格の下落はサウジアラビア政府によるものである。
これに関する解説は次のようなものがある。

原油市場におけるサウジアラビアの政治的動き
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「イランとベネズエラの敵は、石油を政治の道具にしている」



イランイスラム革命最高指導者のハーメネイー師が、
「ベネズエラとの全面的な協力の継続と拡大、それはイランの変わらぬ決意だ」と語りました。


ハーメネイー師は、10日土曜、テヘランで、ベネズエラのマドゥロ大統領と会談し、
シオニスト政権イスラエルに対抗するベネズエラの立場や行動を称賛し、
覇権主義陣営がベネズエラに敵対しているのは、ベネズエラがそのような勇敢な立場を続け、
中南米地域で戦略的な影響力を持っているためだとしました。


ハーメネイー師はまた、
短期間で原油価格が急激に下落したのは、経済ではなく、政治的な動きによるものだとし、

「イランとベネズエラの敵は、石油を政治的な道具として利用しており、
 間違いなく、この原油価格の下落に関与している」と語りました。

~中略~

さらに、原油価格の国際的な下落に触れ、
「我々はOPEC石油輸出国機構の加盟国や、ロシアなどの産油国との間で、
 原油価格をコントロールするための一致を作り出し、協力と新たな制度により、
 原油価格を容認できるレベルに戻す努力を行っている」と述べました。


マドゥロ大統領はまた、パレスチナ問題に触れ、
「パレスチナは人類の重要な理想であり、ベネズエラの国民と政府はパレスチナの理想に負っている。
 いつの日か、パレスチナが解放されると信じている」と強調しました。


さらに、「パレスチナは、アメリカの覇権主義的な政策や破壊行動の犠牲になった。
アメリカ政府は、いくつもの顔の裏側に、非人道的で覇権主義的な自らの本来の姿を隠している」
と述べています。

http://japanese.irib.ir/news/leader/item/51198
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このような状況の中、国内では
かつての新自由主義の時代(1990年代)へと戻そうとする動きが見られます。


新自由主義の時代、すなわちアメリカに追従し、IMFの支援を受け入れ、
石油の民営化、規制緩和、緊縮政策を実施した90年代とはどういう時代だったのか?


統計をもとに論じると、1996年度において、
国民の67.3%が貧困世帯にあり、39.4%が1日1ドル以下の生活を送り、
残り30%の中間~富裕層が全所得の61.3%を独占し、労働者の4分の1しか社会保障を受けていない、
要するに、今のギリシアやイタリアなどの南ヨーロッパと同じ状況に陥っていたのです。
(世界保健機関の統計に基づく)


ここまで貧困が蔓延した原因として石油資源を外資企業に牛耳られていたこと、
IMFが融資の条件として緊縮政策の実施を要請したため、公共サービス事業の民営化、
各種補助金の廃止、公共料金の大幅な値上げなどの数々の搾取的政策が実行されたことが挙げられます。


恩恵を受けているはずの中間・富裕層ですら、1975年あら1997年にかけて、
全人口の56.9%から31.3%に下降していたのです。これは驚異的な数字です。





この状況を打破したのが選挙によって大統領に当選したウーゴ・チェベスでした。

彼の手により、石油企業は国営化され、
その収入を利用して社会保障の拡充が実行されました。


結果、以前よりも貧困世帯は減少し、社会福祉も受けられるようになったのですが、
社会主義というのは一言でいえば分配主義、当然、富裕層にとっては面白くない。

加えて、近年、物価のインフレや物資の不足により、不満を抱く中間層も少なくありません。


このような状況の中、かつての新自由主義の時代へと戻そうとする動きが見受けられます。
それも、選挙という民主的手段ではなく、暴動を扇動するという卑劣な手段によって。


私はつい、先日、偶然、反動派メディアの日本語ページのブログを拝見したのですが、
そのあまりもの出鱈目ぶりに当初、驚きを隠せませんでした。


プロパガンダとはこう作られるのだなと。


ある意味、定期的に当サイトをご閲覧している皆さんに
プロパガンダとは、どう作るのかを知らせる良いサンプルになりますので、ここに紹介したいと思います。



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貧困減少という都市伝説を切る

Kanako Noda / 2014年9月29日

現在の不安定なベネズエラの状況を見てもなお、チャベス派政権を支持する人の多くが口にするのが
「それでも、チャベス政権の政治のおかげでベネズエラでは貧困がかなり減少した」ということです。


ですが、本当にベネズエラで貧困は減ったのでしょうか?


今回紹介するアナベラとバルバラの記事は、数ヶ月前のものですが、
ベネズエラ政治を知る上で重要な点を指摘しています。


ベネズエラでは今、貧困に苦しむ人々が増えています。



ニコラス・マドゥロが2018年までに貧窮のレベルをゼロを目指すと提案したとき、
彼の言葉はベネズエラに詳しくない人の耳には寛大に響いたことだろう。


だが、実際は、マドゥロはウゴ・チャベスのいくつもの
紋切り型となった約束の一つを繰り返していたにすぎない。

例を挙げれば、「2007年から2013年の国家のための社会経済発展計画の一般方針」
の目的II-2.1に「貧窮をゼロまで減少させ、貧困減少に全力をあげる」とある。


というわけで、ニコラスさん、あなたの貧困減少対策はどうなってるの?


私たちは貧困に関するデータをチェックしてみることにした。さて、その結果は?


最近、国立統計局(INE)により公表された公式の統計情報は、
2013年の第二半期の貧困との戦いにおける(彼らの言うところの)
“達成”が大いに阻まれていることを明らかにしている。



2012年の第ニ半期から2013年の第二半期の間で、
ベネズエラの貧困家庭の数は416,326件も増加している。

同じ時期、非極貧家庭の数は227,240件、そして極貧家庭の数は189,086件増えている。

人の数として見てみると、この数字はさらに憂慮すべきものとなる。

2012年の第二半期から2013年の第二半期の間で、貧困にある人の数は1,795,884人増加していまる。


つまり、200万人に近い人々が、一年間でさらに貧しくなっているということだ。
しかも、これらの数字は公式の統計によるものなのだ*。

非極貧状況にある人の数は1,058,520人の増加、
そして、極貧状況にある人の数は737,364人の増加である。

実際のところ、2007年以降、貧困率は実質的にほとんど下がっていない。


*訳注)通常、政府のイメージが悪くならないようにこの手の数字はごまかされているため、
実際はこれよりも多くの人が貧しくなっていると推測される。



より詳しい事実を知りたい人は、Prodavinci.comの記事(スペイン語)をチェックしてみて下さい。

ベネズエラの経済が困難な状況にあるのは誰もが知っている。
予想通り、このことは貧困に関する統計にも表れている。


もうこれ以上チャベス支持者達は、チャベス主義は「貧困を劇的に減少させた」とは言えまい。
貧困の減少も、チャベス主義者の人々が言う多くのことと同じで、デタラメなのだ。

チャベス主義は一時的に貧困を減少させた。だが現在、貧困は増加している。

http://venezuelainjapanese.com/2014/09/29/mythbusting/
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この文章だけを読めば、如何にも本当のことが書かれていそうです。実際にはどうなのか?

それについて触れる前に言っておきたいのが、
プロパガンダというのは、半分の事実を知らせる傾向があるということです。


つまり、全体の事実から一部分を切り取り、誇張する部分がある。
これを踏まえた上で、次の図を見てください。





ちょっと見づらいですが、
これは1990年代から2011年代までの貧困世帯のパーセント数を統計に表したものです。


青線が貧困世帯、赤線が極貧世帯ですが、
これを見ると、チャベスが登場する直前の時期から減少していることがわかるでしょう。


チャベスが本格的に改革に着手したのは2003年からです。

この年より、GDPの成長や雇用創出、国民年金その他の生活福祉資金の増額が
石油価格の高価や石油企業の国営化を背景に得た収入を元に展開されました。


俗にいう「ミッション(作戦)」とチャベスが呼んでいたものです。


結果として、2003年から2011年までは55%から27.5%、
改革当初の2分の1まで減少しました。このように長期的に見なければ実態は見えてこないのです。


また、極貧世帯の人口比率が3分の1まで減ったことも見逃してはならないでしょう。





1997年から2003年までの貧困世帯の比率を表にすると上のようになります。

赤丸で囲んだところは劇的に比率が低下している部分です。


2012年の第2半期の部分をよく見てください。
2012年の第1半期からグンと下がっているのが見えませんか?



さぁ、種明かしです。

上の図は、反動派メディアが引用した統計を利用して作成したものですが、
これを見れば、2012年の第2半期は最も値が小さい時期です。

そこから2013年度の第2半期に点をつなげれば、自然増加することになります。


つまり、反動派メディアは
最も増加数が多くなる期間を選んで
貧困世帯は増えていると豪語しているのです。


これがプロパガンダと言わずに
なんと言えばいいのでしょうか?





ダメ押しで構造的貧困のパーセント数についても紹介しましょう。


ベネズエラの統計では、収入と最低限度の生活費との割合をもって
貧困ラインを設定しているのですが、構造的貧困の場合、収入や物価に関係なく、
サービスを受けられる環境にあるかどうか、すなわち、初等教育への通学、
人口過密の対処、住居環境の改善、基本的な公共福祉の需給、経済的自立の度合を
もとに貧困ラインを設定します。


要するに、貧しくても国から十分なサービスを受けているかどうかということが
この構造的貧困率から推し量ることが可能です。


これを見れば、チャベスの「ミッション」が実行されてから下降線を辿っていることがわかるでしょう。
特に極貧世帯の低下は目を見張るもので、2分の1にまで減りました。



確かに、ベネズエラの経済状況は依然、険しいものです。
しかし、意図的に統計データを編集し、異なる結果を見せるのは詐欺です。


ベネズエラの真の姿を見せるとかなんとか言って、
「もうこれ以上チャベス支持者達は、チャベス主義は「貧困を劇的に減少させた」とは言えまい。
 貧困の減少も、チャベス主義者の人々が言う多くのことと同じで、デタラメなのだ。
 チャベス主義は一時的に貧困を減少させた。だが現在、貧困は増加している。」

と大見えを切るのは如何なものでしょうか?


翻訳者の野田圭子さんは反動派メディアの設立者の妻を自称していますが、
これでは、反政府活動家の発言への信用が著しく低下するのではないでしょうか?


なお、私はスペイン語が読めるので原文もチェックしましたが、
この言い分は、英国のガーディアン紙や米国のニューヨークタイムスで
主張された内容と同一のものですね。新事実を明かすかのように書かれていますが、
実際は欧米の主要メディアの記事の焼き直しです



日本の右翼とやってることが一緒ですね。
神話を暴くとか真相だとか言いながら、コピペを拡散させる。如何にもです。



最後になりましたが、私はマドゥロのやり方が最善だとは考えてはいません。
彼より優れた人間が現れるならば、それに越したことはないと思います。

やはり、途上国として社会問題は山積みなのですから。

しかしながら、それら問題は、きちんと選挙を通じて解決されるべきです。

今、反動派がやっていることは、暴動とテロ、
かつての新左翼がやっていることと全く同じなのですから。



革命というのは選挙をもって行うべきというのが私の信条です。
暴力も時にやむなしという態度は断固拒否すべきだと思います。