キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

エレンのライオン

2011-06-09 09:51:12 | 
Ellen's Lion: Twelve Stories by Crockett Johnson
クリエーター情報なし
Knopf Books for Young Readers

          星の数ほどある児童書の中でも、私にとってはバイブルのような存在

          が、この"Ellen's Lion"です。作者は「はろるどとむらさきのくれよん」や

          「ちいさなかしこいさかな」や「にんじんのたね」などで知られるクロケッ

          ト・ジョンソン。アート・ディレクター、画家、漫画家、いろいろな顔を持

          つ人で、彼の絵本は、絵本とはいえなかなか一筋縄ではいかない奥

          深さを持っています。特にこの"Ellen's Lion"「エレンのライオン」は、エ

          レンとぬいぐるみのライオンが哲学的な、存在のあり方の根本に迫る

          ある意味禅問答的な対話を繰り広げます。よれよれの、ボタンでできた

          目を持つぬいぐるみが、これまたなかなかくせ者の幼稚園児エレンを

          相手にシュールな世界を展開します。あまりにユニークすぎるのが邦訳

          の出なかった理由かもしれません。

          

          ある時エレンは、ライオンが悲しそうな顔をしている、それにお母さんが

          いなくて可哀そうだと、突然やたら同情し始めます。するとライオンが言

          います。ぼくはぬいぐるみで、感情なんかない、同情は御無用と。「ぼく

          は悲しくないし、うれしくない、おなかがすいてもいないし、いっぱいでも

          ない、バカでもないし、かしこくもない、善くもないし、悪くもない、あれで

          もないし、これでもない、君が考えているようなどんなものでもない」

          自分の思い込みで他人(他ぬいぐるみ)を忖度するエレンに、ライオンは

          自分のありようを説いて聞かせるのですが、もうその頃には、エレンの

          興味は、森の中で迷子になった木の子どものお話に移っていて、、、。

          

          自己と他者との関わり合いなんて、こんなものかも知れませんね。人は

          みな自分の思い込みの中で生きているのかも。でも、12あるお話の最後

          に、エレンがはしかになった時のこと、ライオンが消毒のために洗われて

          3日間物干しにつるされた苦労話など、昔の思い出をしみじみ語り合う

          エピソードが出てきます。共に過ごした苦難の日々を振り返り、愛情と連

          帯感を確認しあって、お話はめでたく閉じられるのです。 
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