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ある完璧主義者の妥協?

2006-05-13 23:02:38 | 劇場通信
 おぉ~、なんという挑戦的なタイトル。いやいや、実はこれは全然悪い意味ではないのです。そういうとこ伝わるかしら…。
 『鉄橋の上のエチュード』見に行ってきました。今年も3人、主要キャストを務めるメンバーが参加しています。小原延之さん作・演出の作品は確実な視点と構成により見応えのある作品だと思いました。JR事故で帰ってこない主マヤを駅の駐輪所で待ち続ける自転車を忠犬ハチ公に見立て、4月の札の付いた自転車を探し続ける被害者の友人たち。事故の時一番間近に乗車し、生き残ったサツキは入院していたためか彼女の死を知らず、ケンカしていたため後の車両に乗ったキョウコは、心に深い傷を負いながらも全てを知り、償いのために出来ることを淡々と続ける。上手いなぁと思わせる要素には事欠きません。ケンカをしていて目を合わせないことと、存在を感じられないから目を合わせないことをオーバーラップさせたり、迫り来る事故の恐怖をリアルに観客にその場で呼び起こさせたり、列車の走らない錆びたレールで震災を思い起こさせたり。まさに唸らせられるというか、腑に落ちるという作品だったと思います。小原さんはやはり完璧主義者だったんだ…。
 じゃ、なんで妥協なの?ってことですけれど、戯曲なら一人で書けますけど、上演するなら役者の肉体や存在を通してしか観客に伝わらないという一点に尽きます。役者が下手だった?練習不足?あほだった?やる気なかった? 全然そんなことないです。まぁ練習不足なのはいろいろ事件も起こる彼女たちですから事実でしょうけれど…。くら寿司に関するセリフのリアリティーと、自衛隊の海外派遣に関するセリフのリアリティーに差が出来るのは当然。運転手出てこいっていうセリフのドキッと感に比べ、日勤教育や利益優先の会社経営に関するセリフの滑り感も当然かなって思いました。野生の女優陣と付き合うには、演出家と女優の関係ではなく、猛獣と猛獣使いの関係が必要なのかも知れません。終演後ちらりと交わした会話が「先生、責任取ってくださいよ。」ですって。も、もちろん。
 それでもなんでも妥協し、上演までこぎつけた小原さんに感謝と尊敬を。自分らなりに精一杯背伸びしてそれに応え続けた役者たちに賞賛を。偶然出来上がったこの質感ある作品を、僕は素直にすごいと思えました。あす5/14日が最終上演。これは絶対見た方がいいですよ~。
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