美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その14)

2019年07月19日 21時32分38秒 | 経済

財務省は、「税金は財政支出の財源である」という間違った税金観によって日本を衰退に追い込んでいます。

*自国通貨を発行している政府にとって、財政支出が、支払い能力の限界に突き当たることはないことと、経済活動全般における税の必要性についての議論が展開されます。

事実は、以下のとおりです。すなわち、財政赤字が政府の不払いをもたらすことは決してありえない。支払い能力の問題はまったくない。財政支出が、FRBにある市中銀行の口座の数字を高めるとき、政府のお金が尽きるなどという事態は起こらないのです。

*「財政支出が、FRBにある市中銀行の口座の数字を高める」という箇所がもしかしたら読み手によっては腑に落ちないかもしれません。中野剛志氏がよく使う図を使って説明をしておきましょう。



日本の場合、アメリカのFRBに当たるのは日銀で、「FRBにある市中銀行の口座」は「日銀当座預金」です。また、話を分かりやすくするために①の国債を購入した市中銀行と③の政府小切手を受け入れた市中銀行が同じだとしましょう。

① 市中銀行Aは、日銀に設けられた日銀当座預金を通じて国債を購入しています。その分、市中銀行Aの日銀当座預金は減り、政府の日銀当座預金は増えます。
② 政府は、公共事業を請け負った企業に、政府小切手によって代金を支払います。
③ 請負企業は、政府小切手を自己の取引銀行Aに持ち込み、代金の取り立てを依頼します。
④ 取り立てを依頼された市中銀行Aは、依頼相当額を請負企業の口座に記帳します(ここで新たな民間預金という名のお金が生まれます)。と同時に、代金の取り立てを日本銀行に依頼します。
⑤ この結果、政府保有の①で増えた分の日銀当座預金が減り、市中銀行Aの日銀当座預金が増えます。
*「財政支出が、FRBにある市中銀行の口座の数字を高める」というのは、この局面をとらえた言葉であると思われます。つまりモスラ―の場合、②から話を始めているのです。
⑥市中銀行Aは、戻ってきた日銀当座預金で再び新発行国債を購入することができるようになります。

*注意したいのは、この財政支出プロセスには民間貯蓄はまったく介在していないこと、すなわち、民間貯蓄をまったく減らしていないこと、のみならず、財政支出額分の民間貯蓄をむしろ増やしていること、の三点です。つまり、財政赤字の増大によって民間資金が不足し、金利が上昇することなどありえない、ということです。それゆえ、財政支出に資金的な制約はない、という結論になるのです。

家計や企業やさらには州政府でさえも、小切手を切るときには、銀行口座にドルを持っていることが必要なのはたしかなことです。さもないと、不渡りになってしまいますからね。それは、彼らが使うドルが連邦政府によってつくられるからです。つまり、家計や企業や州政府は、ドルのスコアキーパーではないのです。

連邦政府は、なぜ課税するのか

もし、連邦政府が支出するのに実際のところ何も得ることはないし、得る必要もないのだとすれば(すなわち、財政支出の財源を捻出する必要がないのだとすれば)、政府はなぜ私たちから徴税するのでしょうか(ヒント:例のクーポン発行の両親が、実はクーポンを発行するために何も必要としないのに、子どもたちに週あたり10クーポンを要求するのと同じ理由です)。

連邦政府が私たちから徴税するとても良い理由があります。税金は、経済活動のなかに、ドルを得る継続的な必要性を作りだすのです。それゆえ、人々がドルを得るために、彼らの財やサービスや労働力を売る継続的な必要性を作り出すのです。場所に対する納税義務によって、政府は、そういう義務がなければ価値がないドルで品々を購入します。というのは、納税するのにだれかがドルを必要とするからです。それは、子どもたちへのクーポン税が、クーポンに対する継続的な必要性を作り出すのと同じことです。そのクーポンは、両親のために家事をすることによって稼がれるのです。

固定資産税を考えてみてください(あなたは、所得税について考える用意ができていないでしょう。固定資産税と結局は同じ結論に至るのですが。しかし所得税は、固定資産税よりも間接的で複雑なのです)。あなたは、ドルで固定資産税を支払わなくてはなりません。さもないとあなたは家を失うことになります。それは、例の子どもたちの状況と同じですね。なぜなら、彼らは10クーポンをゲットしなくてはならないからです。さもないと、ゆゆしき事態に直面することになりますからね。だからあなたは、積極的にモノを、すなわち、財やサービスやあなた自身の労働力を売ろうとします。必要とするドルを得るために。それは、例の子どもたちが、必要とするクーポンを得るために積極的にお手伝いをしようとするのと同じです。

とうとう私は、納税するためにドルを必要とする人々と売ったり買ったりするためにドルを欲しがったり使ったりする人全員とを結びつけなければならなくなりました。

*税を経済活動全般との関連で考察する必要がある、と言っているのでしょう。

それをするために、“クラウン”という名の新しい通貨を持った新しい国家の例に戻りましょう。その政府は、固定資産税を課します。政府は、当税金を軍隊を立ち上げるために課し、兵士たちに給料を“クラウン”で支払うと仮定しましょう。固定資産を持つ多くの人々は、突然、クラウンを手にする必要が生じますが、彼らの多くは、兵士としてのサービスを提供することによって政府から直接クラウンを手にすることをどうしても望まないとしましょう。だから彼らは、売るために品物やサービスを提供し始め、それらと、彼らが必要とし欲しがってもいるクラウンとを交換します。彼らは、従軍することなしにこれらのクラウンを手に入れることを望んでいます。ほかの人々は、いまやわが物にしたいと思うようなたくさんの売り物を目にします。すなわち、鶏肉やコーンや衣類や床屋・医療サービスなどのあらゆる種類のサービスを。これらの品物やサービスの売り手たちは、彼らが納税しなければならないお金を得るために軍隊に入ることを避けてクラウンを受け取りたいと思っています。これらの品々がクラウンと交換するために売り物として提供されているという事実によって、ほかの人々は、それらの品物やサービスを買うのに必要なお金を得るために軍に入らざるをえなくなります。

実際、政府が欲しがっている兵士の人数まで人々が軍に入ることを促されるように物価は調整されます。なぜならそうなるまで、政府の支出によって、納税者が全額を納税できるほど十分にクラウンが発行されないからです。軍隊には行きたくないと思っていてしかもクラウンを必要とする人々は、売れるようになるところまで彼らの売り物の価格を下げざるをえなくなります。それが嫌なら、軍隊に入るしかありません。

*上記は、お金の発行額が少ないと、物価が下がる、すなわちデフレになるという経済学の常識とも符合します。


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