美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

やくざ国家・中共に日本はどう対峙すべきか(その4) (小浜逸郎)

2016年04月30日 12時08分21秒 | 小浜逸郎
〔編集者記〕「やくざ国家・中共に日本はどう対峙すべきか」の最終回を転載します。ところで、本日の読売新聞電子版の「北の核・ミサイル問題への対応協議…日中外相 」という見出しの記事中に「中国はミサイル発射などの軍事挑発を続ける北朝鮮を問題視しており、会談では、国連安全保障理事会による対北制裁の履行に向けて日中両国で緊密に連携していくことを確認」とあるのを目にしました。一抹の不安がよぎったのは、私だけでしょうか。これを読むと、極東の軍事的脅威の最たるものは北朝鮮の暴発であり、それに対して、今後日中が連携して臨むかのように読めます。日本にとっての軍事的脅威の最たるものは、北朝鮮ではなくて、尖閣諸島・沖縄・南シナ海に覇権を及ぼそうとしている中共であって、当敵国と安全保障面で連携するかのような外交的スタンスの取り方をするのは、軍事同盟国アメリカの目に安全保障面でのダブルスタンダードと映るのではなかろうかと想像され、危惧の念が湧いてくるのです。日本の仮想敵は、本論中にもあるとおり、中共一国です。その認識と整合性のある対中外交を展開しなければ、日本は、軍事同盟国アメリカの不信を招くだけなのです。



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 中国人は、厳しい大陸の環境で鍛えられた、強い個人主義、同族主義的な意識で自分たちを固めています。ですから、自分たちの利益になることは何でもします。役人の賄賂は当たり前で、そもそも中国語には賄賂に当たる言葉がないそうです。逆にわれに利あらずと見るや、責任などとらずに逃げ出してしまいます。党中央の周辺に群がる富裕層でも、人民元の価値が下がりそうだと踏めば、すぐにドルに換金して資本を国外に逃がしてしまいます。
  また州政府も必ずしも中央政府に従順ではなく、じつは面従腹背、勝手に自分たちの地域を治めているようです。うまく一国にまとまりようがないのを、共産党政府が強権によって何とかまとめているのですが、その共産党の中でも熾烈な権力争いが絶えません。全人代には各地方の代表が集まってきますが、委員が演説をしていても、妙にひっそりしています。野次など飛ばす人はいません。それは、演説文があらかじめ配られていて、それを読めばいいので、音声を聞いても言葉が通じないからです。
 さて、ここから美津島氏の問題提起の②に続きます。もう一度書きます。

②保守派の一部には根強い「中国経済崩壊待望論」は、その根に、にっくき強敵・中共が戦わずして滅んでくれないものかという脆弱な精神ならではの願望を隠し持っている証拠である。

 これはよく的を射ていますね。嫌中本はひところではないにしても相変わらずよく売れているようです。しかしここではまず、一般の中国人と権力を握っている中共政府とを分けて考える必要があるでしょう。「保守派の一部」にとっての「にっくき強敵・中共」とは、中国人一般ではなく、軍備拡張をどんどん行って膨張主義政策をとっている権力集団の中共政府です。これが戦わずして滅んでくれないかという願望を日本の保守派の一部が抱くのは、気持ちとしてはわかりますが、しかし、実際に中国経済が崩壊すると、国際社会全体に大きな悪影響をもたらすわけですから、一番困るのは周辺諸国です。つまり韓国であり北朝鮮であり日本です。
 中国のような巨大地域の経済および政治体制の崩壊(の危機)は、国内的には暴動や革命などによる政変のかたちをとるでしょう。あるいは戦国時代のように、いくつかの国に分裂するかもしれません。
  こうなった時、周辺諸国、ことに我が国にはどういう形で火の粉が降りかかってくるでしょうか。第一に大量の流民、難民が押し寄せてくることです。第二には、切羽詰まった現政権が国内矛盾を糊塗するために、反日をさらに煽り、場合によっては人民の不満のエネルギーを戦争に向けて発散させる形をとることです。あるいは、人民軍が党の統制に従わなくなり、勝手に暴走するかもしれません。また、国内分裂の場合には、各地方に核施設があるので、核兵器使用の管理統制が効かなくなります
  いずれにしても、私たちは中国経済の崩壊を「ざまあみろ」と喜ぶわけにはいかないのです。それどころか、いずれのシナリオを考えるにしても、いまの日本にはこの火の粉をきちんと振り払う力と心構えができていないという事実に戦慄すべきなのです。美津島氏が、保守派の一部の隠し持っている「脆弱な精神ならではの願望」を深刻な事態として憂慮するのは、こういうことを考えているからだと思われます。

  対中共戦略についてまとめましょう。
 私たちは最大のやくざ国家・中共の隣人として、絶妙なスタンスをとることを強いられているようです。

①南シナ海への侵略に対しては、アメリカの対抗措置をもっと実効性のあるものにするように促す。合わせて日本として可能な限りこれに呼応できる戦術を講じる。
②一方で、アメリカの「リバランス」の限界をよくわきまえ、日本がアジアの平和を守る盟主として友好国に主体的に連帯を呼びかけ、集団安全保障体制を確立する。
③また、中共の日本孤立化戦略に対抗するため、米露の媒介役として新しい日露外交を展開する。
④SDR入りなど、国際金融市場の常識に反するアンフェアな経済戦略に対しては、そのルール違反の事実をことあるごとに国際社会に向けて発信していく。同時にAIIBによって集められた資金が軍備拡張に使われることの危険を訴えていく。
⑤中国経済の崩壊とその結果としての政変によって起こりうる事態に備えて、流民・難民対策の真剣な追求、国防予算の一層の拡充、そして場合によっては、アメリカとの緊密な協調の下に、核武装の可能性も模索する。


 だいぶ話がきな臭くなってきたと感じられた読者もいると思います。しかし国内統治や経済の内実がぼろぼろなくせに国外には見栄ばかり張って覇権国家たろうとしている中共に、中長期的な視野で対抗するためには、これらのことを本気で課題に上らせる必要があると思います。(この項おわり)
コメント (2)
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