東日本大震災の津波に襲われた太平洋岸に、森の防波堤を築こう──そんな運動が始まっている。
タブノキやシイ、カシ類などの広葉樹の森を育てて、将来の津波被害から命を守る。盛り土には震災がれきをいかす、という構想だ。
世界各地で植林運動を続ける生態学者の宮脇昭さんは先日、東京で開かれた記者会見で、「今回の震災で多くの広葉樹が生き残った。土深くまで根を張っていたからだ。次の氷河期が来るという9000年先までもつような森を築きたい」と語った。
宮脇さんによると、昭和初期以降に造られた防潮林にはマツが使われてきたが、根は浅く、大津波には弱い。土地本来の常緑広葉樹こそが森にふさわしいという。
北海道・富良野から駆けつけた脚本家の倉本聡さんも力を込めた。
「津波に残った木々の根っこは互いに絡み合って、生きていた。それこそが『絆』ではないか。被災した家族の歴史がしみついたがれきをゴミ扱いせず、生かしていきたい」。
あの会見以来、街を歩くと新緑の木々の名が気になって仕方ない。タブノキやシイに出会うと、思わず、その美しい姿を見上げてしまう。
国民運動として盛り上げようと、細川護煕琴元首相を理事長とする財団法人も結成された。多くの人々の参加を期待したい。
(朝日、2012年06月20日。窓、脇阪紀行)