壁
壁という言葉について日頃疑問に思っている事をまとめたい。
1、まず、「ベルリンの壁」はなぜ「壁」と訳し、「塀」と訳さ
ないのか。前から不思議に思ってきました。
原語はもちろん Berliner Mauer です。この Mauerを「壁」と訳
しているのです。辞書でこれを引くと、「壁、外壁、塀、城壁」が
載っています。
私の感じでは、「壁」という日本語でまず考えるのは「部屋の壁
」でしょう。しかるにこの「壁」にはドイツ語なら Wand という単
語があるのです。この Mauerは「塀」なのです。土塀などという時
の「塀」の巨大なものなのです。
しかし、逆に考えて、ベルリンの壁を「ベルリンの塀」と呼んだ
ら、少し変な感じがすると思います。「壁」という語に慣れている
からかもしれませんが。
2、次にそういう具体物としての「壁」でなく、「それを突き破
らないと先へ進むことができない障害」(新明解)という意味での
「壁」については、「壁は厚かった」という表現が多く見られるの
ですが、「壁は高かった」ではないのか、という疑問を前から持っ
ています。
壁を「突き破るべきもの」と考えると「壁は厚かった」となると
思います。それに対して壁を「乗り越えるべきもの」と考えると「
壁は高い」になると思います。
最近の新聞での用例を挙げます。
1, 〔テニスの中村藍子にとって〕かつて世界のトップに立った
元女王の壁は厚かった。
(朝日、2007年06月28日)
2, ヨシムラは1980年の第3回大会も制したが、その後はメーカ
ーの壁が厚い。〔バイクの8耐の話〕
(朝日、2007年07月21日)
3, 異文化の壁を自然体で超え、若手登竜門の頂点に立った。
(朝日、ひと欄。2007年07月02日)
4, (「名人とは」という質問に対して)「将棋界の歴史そのも
のでいまだ遠い存在。やっとA級にたどりついたが、壁はより高く
感じる。だからこそやりがいもあり、頑張りたい」
(2007年07月03日、朝日、行方尚史八段)
5, それだけ日本車は、韓国市場ではハードルが高い〔なかなか
買ってもらえない〕。
(朝日、アン・ヨンヒのコラム。2007年06月30日)
6, 彼がいう「日本で陸上をメジャーにするチャンス」には違い
ない。だが、そのハードルは高い。
(朝日、2007年07月22日)
ここには6種の表現を集めましたが、私見では、「壁は厚かった
」と言う人の方が圧倒的に多いと思います。用例 4は珍しいと思い
ます。
用例 3は「乗り越えるべきもの」としての壁の方になりますが、
こういう言い方なら割とあるかな、とも思います。
同じ意味での「ハードルが高い」は日本人はあまり使わないと思
います。用例 5の筆者は韓国人です。ドイツ語でもやはり「ハード
ルが高い」と言います。韓国語でもそうなのでしょうか。
こう書いた後に用例 6が出ました。日本人でも使うようになって
きているのかもしれません。
随分昔の話になりますが、かつて巨人が9連覇していた頃、パ・
リーグで優勝したチームの監督が巨人の川上監督に「厚い胸をお借
りします」という電報を送ったという新聞記事を読んだことを好く
覚えています。もちろん日本シリーズでの対戦のことです。
「胸を借りる」を使うならば、やはり「厚い胸を借りる」しかな
いと思います。
(2007年07月03日)(2007年07月23日、書き換え)