マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

法人税引き下げ問題

2010年06月25日 | ハ行
 アップル(米)6・3%▽ノキア(フィンランド)2・4%▽サムスン電子(韓国)1・7%▽パナソニック(日本)1・6%▽ソニー(同)l・3%。

 世界のエレクトロニクス企業の納税額の売上高比率を計算してみた(2007年度と09年度の平均。08年度はリーマン・ショックの影響が大きいため除いた)。

 この数字を眺めると、日本の法人課税(地方税も含む)は重い、という「常識」とは異なる姿が見える。売上高から税金をどれほど払っているのか、つまり人件費などと同じようにコストとして見ると、多機能携帯端末のiPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)のヒットで好業績をあげ、税引き前の利益率が20%を超えるアップルが最も税金を払っている。
 サムスンも、韓国の実効税率は24・2%と低いが、利益率は9%台と高く、納税額の水準は日本勢を少し上回る。日本勢は税率(40・7%)は高いが、各社の利益が少なく、実際に支払う税額は少ない。

 「日本の法人課税の税率は諸外国に比べて高い。税率を下げて、競争力を増さなければならない」。経済界も政治も同じ方向を向いている。政府は成長戦略に法人税率下げを盛り込んだ。税率下げは企業負担を軽くし、確かに競争力を増すが、実際の効果が大きいかどうかは話は別である。

 日本企業の利益率は世界の優良企業に比べて低い。一方、アップルは日本勢が赤字に沈んだ08年度も20%を超える利益率だった。付加価値の高い商品を生み、利益を得て、税金を払っても再投資に回す資金が十分残る、という好循環を維持している。

 こうした経営ができるのは、消費者が飛びつく商品やサービスを提供し続ける経営力があるからだ。初代iPhoneの発売からすでに3年。今年になってiPadも発売した。かつては家電・オーディオ分野で世界をリードした日本勢からはアップルに対抗する商品は出てこない。日本勢の苦境は税率の高さが主因ではなく、経営力が劣っているということに尽きる。

 人口が縮小する国内市場で多くの企業がひしめく日本は過当競争を招きがちだ。そこで体力をすり減らしていることも、新しいビジネスモデルを築けず競争力をなくしている一因だ。付加価値の高いビジネスモデルを富につなげる経営力を発揮する会社に進化する努力こそが大切なのだ。経済界は競争力アップのため、法人税率の引き下げを求めているが、まず利益率を引き上げるように知恵を絞るのが先である。

 税率が高いから日本勢からiPadが生まれなかったわけではない。税率を下げればiPadが生まれる保証もない。5%の法人税率下げで1兆円の財源がいる。減税の費用対効果を見極める「仕分け作業」が必要だ。

  (朝日、2010年06月22日。安井 孝之)
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