マキペディア(発行人・牧野紀之)

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ストア派の自然法思想

2017年08月10日 | サ行
   

 自然法という言葉は長い歴史の中で物凄く様々な形で使われてきました。自然法に関する理論は互いに異なったものが山ほどもあります。しかし、法による規制の正当性を規定するために自然法的道徳感覚の果たした大きな役割はみなが認めるものです。

 ギリシャ哲学は自然と(人間の作ったものである)法規ないし慣例とを厳格に区別した哲学でした。そこから慣例主義が生まれるのですが、これに反対したのがプラトン及び特にアリストテレスでした。そのため自然法の産みの親はアリストテレスだとされることが少なくありません。しかし、これには異論もあります。

アリストテレスを支持する意見の根拠の一つは『詩学』の中でソフォクレスの『アンチゴネー』が引かれていることです。その悲劇の中で、クレオン王は(アンチゴネーの兄だが反逆者である)ポリュネイケースを弔う事を禁止しましたが、アンチゴネーは王の禁令に逆らって、〔人情と言う普遍の自然法に従った〕からです。

 自然的正義と言う伝統的な考えを自然法に発展させたのはプラトンとアリストテレスに続いて現れたストア派だとされています。普遍的な体系としての自然法思想が生まれたのは古代ギリシャ世界に広大な帝国ないし王国が出来た事と結びついています。アリストテレスは、人の訴えることが出来る一層高度な法があると示唆しましたが、それは実際には物凄く自然的な法で、神による実定法の結果とは全く矛盾するものでした。ストア派の自然法はその起源が自然に由来するものか神に由来するものかには全く無頓着でした。ストア派は、宇宙には理性的で合目的的な秩序(神法ないし永遠の不変な法)があるのであり、理性的存在〔人間〕がこの秩序に一致して生きるための手段が自然法であり、これに従った行為が美徳に通ずるのだ、と主張しました。

 「人間の平等の思想はストア派が政治思想にもたらした最高の貢献であり、その最大の影響は法概念を変えた点に見て取れる」と言う人もいます(1)。
(1) ヘーゲルは、「古代ギリシャ人は偉大であったが、人間の平等の観念には達せず、これはキリスト教が初めて成し遂げたことだ」と言っています(『小論理学』第163節への付録1)。しかし、この評価によると、ストア派が既に「人間の平等」を主張していたわけですから、ヘーゲルの考えには修正が必要となります。
エンゲルスは論文「原始キリスト教と現代労働運動との類似」の中で、「原始キリスト教はストア派と新プラトン派を受け継いでいる」と言っています。これはどの点を指しているのか分かりませんが、「人間の平等」については当てはまると考えられます。

 自然法という概念はストア派が初めて使ったものです。ストア派は、神はあらゆる場所に存在し、又誰の中にもいるのであって、人間の中に在る「神の光」が自然に適(かな)った生活へと導いてくれるのである。宇宙は或る方式で設計されており、その方式と調和して生きるのを助けるのが自然法だ、と考えたのです。
 
 この考えはローマ法の根底にも流れています。至高の理性とでもいうべきものがあって、それは全ての人間の中に生きていて、自然と一致するもので、変わることがなく、永遠なものである、という考えです。万人の従うべき唯一の掟はこの理性の声を聴くことだ、というのです。
(以上、英・独・仏のウィキペディアの「自然法」から牧野が適当にまとめました)

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