マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

少年鑑別所

2012年10月15日 | サ行
 事件で逮捕された少年は、家庭裁判所による審判で処分が決定するまで、少年鑑別所で暮らす。立ち直りを重視する少年法は、厳罰化を求める議論が進む。犯罪は減らせるのか。鑑別所は更生にどんな役割を果たすのか。静岡少年鑑別所の遠藤隆行所長に聞いた。

 ──非行に走った少年とどう向き合うべきですか。

 入所時は目つきが鋭く、非常に警戒しています。ひどいことはされないとわかれば、心を開くようになります。職員は厳しさと優しさをバランスよく出す必要があります。

 一人ひとりに関心を持ち、声を掛けるのが大事。

 勉強や運動ができなくて挫折したり、子育てに無関心な親の元で成長したりした子がいます。学校では白い目で見られていた子もいます。どんな子にも平等に接するようにしています。

 ──少年による事件が起きるのはなぜですか。

 家庭環境の問題が一番大きいです。核家族化が進み、子育ては難しくなっているかもしれませんが、愛情を注いでほしいです。親が変わるべきです。非行の数は減る一方で、虐待は増えています。収容される子も虐待を受けた経験を持つ子が多いのです。子育ては人生の一部ですから、子どもに関心を持ち、成長に喜びを感じてもらいたいです。

 ──少年が事件を起こした背景をどこまで明らかにすべきですか。

 マスコミは匿名性などに十分配慮してほしいです。社会的な影響が大きい少年事件の報道は、本人と家族の生きる道をなくしてしまうこともあります。

 一般の方は、少年事件の動機が報道されると納得するかもしれません。でも、実際は表に出ていない部分で、家庭の問題や友人関係など複雑な背景が絡んでいます。それを詳しく知る機会がないような気がします。事件の原因は一つではありません。

 ──少年の更生に対する鑑別所の役割は何ですか。

 非行をした少年の問題性を見分けるのが鑑別です。収容する少年のうち、7割は鑑別所に入るのが初めて
の子です。子どもたちは、鑑別結果が家庭裁判所の審判の資料になると知っているので、本当の自分を出そうとしません。それを引き出すのが役目です。

 鑑別所は教育機関ではありません。ありのままの姿を観察するように努めています。プレッシャーをかけず、少年自身を見ています。24時間態勢で普段の生活態度を把握し、鑑別結果通知書を作成する際の参考にします。心理検査や知能検査の結果に表れない部分をつかむのが大切です。

 ──最近の鑑別結果の傾向はどうですか。

 少年の犯罪は、重大な刑事事件なら裁判員裁判になります。裁判員が鑑別結果通知書を目にするかどうかは分かりませんが、客観的事実とその根拠を示すことを心掛けています。裁判官も裁判員も心理学のプロではありません。専門用語を避けて分かりやすい表現を目指しています。

 少年鑑別所

 家庭裁判所が送致した少年を最長で8週間受け入れる。医学や心理学、教育学などの専門知識に基づいて非行の原因を明らかにし、更生方法を診断する。鑑別結果は審判の判断材料になる。全国の県庁所在地などに52庁(分所1庁を含む)が設置されている。

      (朝日静岡県版、2012年09月25日。小林太一)

 感想

 もう十数年前になると思いますが、NHK特集で「家族画」というのが放映されました。それは、名古屋少年鑑別所で監察官が入所した少年少女に自分の家族の思い出の絵を書いてもらって、それを分析し、相手とも話し合う中で、相手を正しく理解しようと努力している姿を伝えるものでした。

 VTRに取って看護学校の授業では毎年ほとんど必ず見せるようにしました。或る年の「教科通信」を引用します。

   VTR「家族画」を見て

──中学生の時、教育実習に来ていた人が少年院を経験している人でした。その人はそのような過去を皆に話すことで、生徒たちに自信を持ってほしかったのではないかと考える。

 警察に連れていかれた後は、人生に悪い影響を与えるばかりではなく、その後の人生はその人自身の考え方によりいくらでも更生できるものだと思う。だからといって法律に違反する行為をしてもよいのではなく、1度失敗しても悲観的になるのではなく、自分の人生をしっかりと見据えてがっばっていくことだと思う。

──親と子は別々なのだと感じた。そして、子供は真っ白であると思った。真っ白で何もない状態に沢山の色が混ざっていく過程で親の影響はとても大きくて、親のたった一言でも色はがらっと変化する強く大きな力があると思った。

 子供は親が大好きで、好かれたくて愛されたくて、自分の意志とは違うことをしてしまうこともあるのだと思った。親に好かれたいがために、親の抱いている子供像を子供が感じ取り、教育されていく内に、親に好かれる方法を見つけ、子供はそれを演じ、演じているために疲れてしまって全く逆の事をしてしまうのかもしれない。子供を育てることは本当に難しいのだと感じた。

──中学のクラスに、家庭環境が悪くて問題になるいわゆる不良という子がいた。授業に途中まで来ていたが、後半は席がぽつんとあり、どこか施設に行ったと聞いた。

 卒業の時のアルバムにその人の住所が忘れられていて、後から回収して付け加えられた。先生にとってはそんなもんだったのかなと思った。私たち生徒には何も言わずにアルバムを回収したが、みんな大体気づいていた。生徒は分かっていたのに、先生は忘れるなんて、悲しいと思った。

──私には、小さい頃から病気で小学校の頃に入退院を繰り返していた四つ違いの姉がいる。小中学生の時、両親の気持ちがすべて姉に行っている気がし、兄も長男ということで何か皆に特別視されている気がして、私は放っておかれていると感じ、さみしい思いをしていたことがあった。

 だからこつこつと勉強もがんばっていたし、特に道にはずれることもなくて、良い子を演じようとしていたかもしれない。でも高校や現在に至って、私はそのような気持ちでいた事を母親に話した。今までためていたものを吐き出せた気がした。私のそういう気持ちを母は分かってくれていたし、その時の私を受け入れてくれた。今の自分があるのは、その時の気持ちや受け入れてくれた家族があったからだと、最近思う。(以上、「天タマ」第44号より)

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