勝間和代さんの講演(要旨)
幸福度調査をすると、日本は先進国で最低に近い水準にあります。さらに非常に自殺率が高い。
何がいけないのか。それは労働生産性の問題です。1時間働いた時に、貨幣でどのぐらいの価値を私たちが産出できているかということで、それが日本は低い。
非常識な長時間労働を何とかしなければいけないということです。なぜ第1子を生んだ時に女性正社員の7割が辞めてしまうか。これも長時間労働に尽きます。男性も家に帰るとくたくたで子育てどころじゃない。男女を問わないワーク・ライフ・バランスの改善が不可欠です。
夕食を週7回つまり毎日ご飯を家族と一緒に食べる人が何%かというデータでは、フランスでは5割、日本は6人に1人ぐらいです。「家族」の定義の1つに食卓を一緒に囲むということがあると思います。でも食卓を囲むという単純なことですら、特にお父さんはできなくなっています。
新卒一括採用、終身雇用の年功序列が強すぎるがゆえに、その枠組みのなかで企業内、産業間競争が強すぎる。ほとんど付加価値を生まない競争だったりします。だから徒労感を招くわけです。これから先、このままの働き方を続けられるのか。はっきり「ノー」です。人口動態を見れば明らかです。東京五輪の頃の人口1億人に2050年ぐらいに戻るんですけれども、その時は3人に1人が高齢者ですから。
今まで少子化対策というのはほとんど効果をあげていない。なぜか。その答えは一つ。長時間労働を規制していないからです。北欧諸国とか米国では、働いている女性が当たり前なので、それに合わせて社会制度、会社の制度が整ってくる。日本はそれができていない。結果として何が起こるかといいますと、一つは競争力不足です。
たとえば米国。ここ10年間で国内総生産(GDP)が年率3%ぐらい伸びている。実質的な増加分のGDPというのはほとんど女性が稼いでいます。より優秀な女性が社会に出ることで付加価値が生み出され、国力、競争力につながっているんですね。
GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)という数字があります。女性をちゃんと活用しているかという数字ですが、日本はこれも低く57位です。
国会議員や管理職のうち何パーセントが女性かなど、さまざまな数値指標から機械的に求められます。日本では管理職の比率が9%。先進国の中で1ケタは日本だけです。管理職は原則、長時間労働をしなければいけないので、男性は女性を管理職にしたがらないし、女性も管理職になりたがらない。だから管理職に女性が少ないんですね。
結果として、管理職でないので女性の賃金水準が下がります。女性の経済的自立が遅れ、シングルマザーになった時の貧困率が高くなるという構造が連続してあります。
また、日本は国会議員というリーダー的なポジションに女性が約12%しかいない。せめてGEMで20位を目指したい。20位の国のイメージですが、国会議員も管理職も4人に1人ぐらいが女性です。
日本全体のワーク・ライフ・バランスを変えないとどうしようもない。女性優遇策だけではだめなんですね。時短とか女性活躍推進室みたいなところをつくってもだめ。週40時間労働で、しかも国際競争に勝てるぐらいの労働生産性を保って1週間にせめて3、4回は家族全員そろって食卓を囲む。こういう生活がないと幸福度は上がらないし、GEMも改善しないと考えています。
八つの提言です。
①「家族政策費」の対GDP比率を現状の0・7%から倍増させましよう。
②家族省を創設し縦割りの家族施策を統括しましょう。
③総労働時間の規制を導入しワークシェアリングを導入しましょう。
④女性に対する統計的差別を撤廃しましょう。「今まで女性は使えなかったから次もやめよう」というのが女性に対する統計的差別です。
⑤税制で配偶者控除の金額を引き下げ、子ども扶養控除の金額を引き上げましょう。
⑥保育園の待機児童ゼロを目指しましょう。
⑦正規雇用と非正規雇用の均等待遇を実現しましょう。
⑧パパ・クオータ制を導入しましょう。これは育休に関する上乗せ制度です。
男女共同参画は何のためにやるのか。これは少子化対策や女性の福利厚生のためにやるわけではない。単純に男性も女性も幸せになるためには、私たちのような先進国と言われている社会では不可欠、不可避なことなんです。
それによって国際競争力を増さなければいけない。国際競争力が増すことは労働生産性が上がることですから、短時間でより多くの収入が稼げるので、もっと楽な生活ができるということなんです。
(朝日、2010年03月15日)