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ウォルト・ディズニー

2010年07月26日 | タ行
ミッキーマウスなどのキャラクターを生み出し、ディズニーランドを作り上げたウォルト・ディズニー。グリム、アンデルセンらの童話を夢と感動の物藷に変身させ、絵本やアニメで普及させて原作を超えて世界の標準ストーリーに仕立てた。「20世紀のグリム」などと呼ばれるゆえんだ。

 シンデレラの原作では靴を履かせるため、継母は姉のつま先を切り妹のかかとを削る。姉妹は最後に鳩に目をくりぬかれる。彼にかかると内気な女の子の復讐劇は王子との恋愛成就物語に変質する。

 残忍な場面を省き、困難の中でも夢を持ちつつ努力すれば、成功し愛も獲得できるというアメリカ的価値観への見事な適合。一方で妨害を乗り越え結婚や豊かな生活を獲得する物語は文化の単純化・幼稚化だとの批判も受けた。

 家が貧しく高校は1年で中退、「四六時中働いていた」彼の生涯の念願がディズニーランド建設だ。乗り物や見せ物の寄せ集めである従来の遊園地(パーク)を否定し、吸い殻は25秒もたたぬうちに従業員が拾い上げるほどの清潔さと、ショーの楽しさ、従業員の礼儀正しさを徹底。一つのテーマが貫かれた夢あふれる世界(ランド)を作り出した。

 現実にはありえない「夢が実現され」かつ「塵一つない清潔な世界」を巨大資本で出現させ幻惑させる。伊の哲学者ウンベルト・エーコはディズニーランドを「にせものの大傑作」と評したが、それこそがディズニーの意図だった。ありえないはずの「地上で一番幸せな国」の存在を信じて疑わなかったところに彼のすごさと不気味さがある。

  (朝日、2010年06月26日。歴史研究家・渡辺修司)
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