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円高

2010年01月03日 | ア行
 円高に対する懸念が、また強まっている。足下では日銀の金融緩和などからやや戻しているが、それでも半年前と比べ円はドルに対して1割も高い。

 円高懸念の理由は、輸出の減少と景気減速である。景気回復は引き続き輸出依存であり、輸出減少が景気二番底を引き起こす可能性もある。一方で円高にはメリットもある。原材料や製品の輸入企業は、円高に伴う輸入コストの低下で収益が増える。円高還元セールなどを通して小売価格が下がれば、消費者にもメリットが及ぷ。

 問題は、円高の利益と不利益のどちらがどれだけ大きいかだ。輸出が輸入を上回る(つまり貿易黒字)限り、円高の影響は差し引きマイナスである。しかし、貿易黒字(国際収支ベース)の規模は、ピークであった1992年度の16兆円から2008年度は1兆円へと激減し、2009年度も6兆円程度にとどまりそうだ。つまり円高のネット悪影響は、以前より小さくなっている。

 円高抵抗力も高まっている。企業の経常利益がゼロになる為替レート(損益分岐レート)を試算すると、2009年度上期では1㌦=79円と、実際の為替レート(95円)よりかなり円高水準にある。海外生産や輸入の拡大を通じて、日本経済は円高に対する耐性を強めている。

 それにもかかわらず、円高の悪影響ばかりが喧伝されるのは、エコノミストやメディア、政治家が過去のトラウマに捕らわれていることや、悲観論が浸透しやすいといった事情があろう。しかし実態をみれば、円高で大騒ぎすべき理由は少なくなっている。そして、円高は内需にとってはプラスである。円高恐怖症から、そろそろ抜け出すべき時ではないか。

 (朝日、2009年12月10日。経済気象台、山人)