県の7割以上が山林で、可住地面積割合は47都道府県中34位。地の利がいいとは青い難いが、数字以上に「キャラが立つ」県だ。
人口は全国の2%だが、「じゃけんのう」と広島弁を使う人物は、映像や活字の世界では目立っている。選手の年俸合計が12球団最低でも、金持ち球団と互角に戦う広島カープは全国に根強いファンを持つ。カキ、マツタケ、筆に琴にやすり、げたなど生産量1位の物産も個性的だ。
海外での知名度も高い。宮島の大鳥居は外国のポスターやカレンダーによく取り上げられる。原爆の惨禍を超え、川と緑の美しい街並みを復興したヒロシマはオオサカやナゴヤより有名だろう。本社があるマツダも、個性と技術が世界で評価され、輸出が絶好調だ。
広島は、入港船舶数や船舶乗降人員数が日本一でもある。日本を行き来する船の7隻に1隻、乗降人員の6人に1人が、県内の港を出入りする計算だ。波静かな瀬戸内海には、橋があっても船の方が早くて安く行ける島も多く、船が足として生活に溶け込んでいる。
福山市の郊外・鞘(とも)の浦でのイベント。港に沈みゆく秋の夕日をバックに、ギターを弾き語るアーティストの背後に、沖の小島への連絡船が行き交う。江戸時代の港湾遺構が、往時と変わらぬ街並みとセットで残されている当地。
映画監督の宮崎駿氏も長期滞在し、ここでのスケッチを今夏公開の新作に生かした。主人公の父親は船乗りという設定だ。地元が申請すれば、厳島神社、原爆ドームに続く県内3番目の世界遺産となる可能性も高いといわれる当地の風光を味わいに出かけてはいかがだろうか。
(地域経済アナリスト藻谷浩介、協力・日本政策投資銀行地域振興部)
(朝日、2008年07月12日。)