植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

3万円は安いか 生まれて初めて日本画を買うの図

2021年10月22日 | 篆刻
 二日続けて整理仕事を致しましたが「坊主の引っ越し」で、「はかはいかない(はかどらない=墓は行かない)」のであります。書道と篆刻関連用品であふれかえった隠れ家には、印材を書棚に積み上げるだけでなく、大小さまざまな容器・箱や引き出しに入った1000個以上の印を分類し、その品質や大きさ、価値に応じて移し替えすると言う膨大な作業が待っているのです。
 のみならず、印泥の整理も合わせて行います。これも「北京一得閣」など高価で上質な印泥から、銘柄不明のうす汚れた印泥まで30個ばかりあり、ちゃんと品質や種類で仕分けしてしまう場所を決めたりしなければならないのです。

 昨日のうちに買ってきた整理用スタックボックスを2個組み立てし、そこにあちこちに置いてあるピンからキリまでの印を仕分けして収納します。どこの家のお片付けでもそうであるように、やっているうちに、停滞・脱線し始めますね。落札したのを忘れていた珍しい印をじっと眺め、印材の種類(名前)を調べたり、篆刻済みの側款を見つけては篆刻家名をチェックとちっとも片付きません。早い話が、右から左に動かしまた元に戻すと言った按配なのです。

 そうこうしているうちに、先だってヤフオクで落札したお宝2つが届きました。原則として1件1万円以内しか投下しないというヤフオクですが、今回ばかりは特例扱いで3万円と9千円で落札しました。一つはこのブログで紹介した、日本画家、高橋史光画伯の「鹿寿老図」であります。箱書きの署名印にワタシの所蔵する印が合致しているので、本物で何かの縁であろうと考えて入札したのです。
 そもそも高橋さんの篆刻印は「雪山人」という人が彫っているのですが、印材が上質であったのでたしか3個数千円で落札しました。この印の価値を補完する意味で、その10倍近いお金で日本画を購入すると言う、本末転倒の所業です。(笑)

 落札出来たとたんに、他でも少なくとも3か所35千円で売り出されていたメルカリ・フリマなどの商品「鹿寿老図」がパッと「売り切れ」「取り消されました」と表示されたのです。つまりこの絵がネット上で色々な媒体で同時に売り出されていてワタシが落札した瞬間に「これにて売約済み」となったのです。当たり前と言えばその通りですが。この時点で5千円が浮いた勘定になります。ちょっと得した気分❤。

 ワタシの唯一の関心がその絵が「本物」であるか否かの一点にありました。3万円の出費が水の泡になるかもしれないという不安、おそらく骨董やオークションの世界で最も共通した普通の感情・懸念であります。実際、日本画を買うのは今回が生まれて初めて、目利きでもなければ、どのあたりが相場なのかなど知る由もありません。

 よく考えてみると3万円というのは中途半端な値段、博物館にも収蔵されている画伯の絵が本物ならば、数十万円してもおかしくない。かかった材料費、人件費(恐らく何日もかけて描いています)に表装代を乗せたら利益や仲介料などを入れなくても10万円以上が実費です。
 なので、もしこれが贋作や模造品で高く売りつけようと思ったら、10万円以上の最低価格を設定するのではないかと思います。ワタシが贋作で一儲けをたくらむならば、若冲とか大観さん、黒田清輝さんなど名高い人気の画家さんの偽物を作ります。その方が圧倒的に需要が多く、値段も数百万円になりますから。

 届いた品物は、古びた桐箱に収まりご本人の箱書きには印が押されていて、ワタシの持つ印と大きさもピッタリ一致しました。少しかびた臭いがいたしますが、表装は金糸がベースになった絹布を使っていて、仕立ても完ぺきな本表装でした。絵そのものにはシミもしわ一つない状態なのが、S38年7月に描かれたものとすると非常に大切に保管されていたのかとも思いますし、実は新しいもの(贋作)かもしれないとの疑念もわきます。お宝鑑定団では、掛軸で「これはプリントですね。」と残念なお品だったという場面によく出くわしますね。子細に目を凝らしましたが、表面にはどう見ても細密で丁寧に顔料(絵具)を塗ったとしか見えません。印刷ではないことが一目でわかります。

 表装代だけで2万円は下りません。もし贋作ならばこんな手の込んだ細工・表装をして3万円は割に合わない、従って本物であろうと言うのがワタシの結論であります。情報が正しければ、この絵が描かれた年から7年後に亡くなっています。画業では最晩年に描いたものになりましょう。箱書きにある「寿老」の文字を見ると、この絵に描かれた翁は、気負いがなく晩年の高橋さん自らをモチーフにしたのではと思ったりします。

 それからもう一つ、9千円で落札したお品は「耘萍石泉印泥」です。その等級は「超級珍品」2両装(60g)であります。
 ワタシがかねてより、印泥のことを調べ研究するうえで貴重な知識を得た人が「龍尾山人」さんです。ネットでも数少ない墨・印泥に高度な知識を有している専門家の方で、断箋残墨記という専門的で格調が高いHP(ブログ)を運営していて、硯など書道に関する古玩を扱っているようです。

 この断箋残墨記には、100年以上前からの中国の印泥製造にまつわる記述などが随所に出てきます。いろいろな事情によって「最近の印泥は品質が落ちた」と語る中で、入手可能なもので最高の品質としては 博印堂特注の李耘萍(リウンビン)印泥 が一押しのようです。印泥製造の世界では、作る個人が研究し製法は門外不出の秘法とされ「高式熊」さん「李耘萍女史」が名人として最も名高いのです。
 
 その中でも「超級珍品」というのは非常に珍しく、高価で滅多にヤフオクでも出品されません。以前から欲しくてやっと探して落札したのが「美麗朱硃」です。箭簇、上品、珍品ときますのでこれより3,4ランク上の逸品です。届いた濃紺の布箱に収められた印泥はおそらく近年のもの(せいぜい10~20年前くらいか)で、汚れもないほぼ新品でした。箱の裏には値札「24,200円」!、ワタシの手元にある印泥の中では最も高価で上質の部類であります。
 
 現在市販されている耘萍印泥で最も高い「貢品」(2両定価45,210円) は流石に求めますまい。恐らく本職の書道家や篆刻家でもそうは使いません。知り合いの篆刻家杉山先生も高くて買えないと仰っていました。

 3万9千円という金額はバブルの頃、土日でプレーしたゴルフ料金程度のもの。あぁ、これでこんな素敵な絵や印泥が手元に届くなら安いものであります。

 今朝はグッと冷え込みます。懐は少し寒くなりましたが、かかった値段よりもはるかに良質でリッチなお品を手にしてワタシの気持ちはシアワセでとても暖かくなっております。
コメント (1)
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