国語の教科書や、辞書に載っていない漢字はたくさんありますが、それでもなんとか読めたり、知り合いの人の名前に使われたりしています。その多くは偏や旁、部首の位置を動かしている文字です。
有名な漢字では、峰→峯、崎→㟢、野→㙒 松と枩 嶋と嶌 といったところですが、調べてみると案外多いものであります。どうもわが国では姓名によく見られる気がします。
これらを動用字とかあるいは広く異体字 と呼ぶようです。漢字の起源は中国の象形文字・古代文字に遡ります。甲骨文や石鼓文、金文などの字が流布した数千年も前のころは部首のパーツさえ揃っていれば、その位置はかなりいい加減でおおらかだったのですね。
篆刻の修行で刻印された漢字の解読していると、??という字に出くわします。こんな字は見たことない、なんか変、というのがこの動用字であることがだんだんわかってまいりました。例えばこれであります。
いずれも、かなりの腕前の彫りとお見受けしました。左は遊印、右は関防印です。大きい方の字は辞書には出てきませんが、これは「秋」という文字で、のぎ偏と「火」を入れ替えています。
右の小さい白文ですが、こちらも下の字がちょっとわかりませんでした。ヒントは子供が手を上げて万歳しているような「子」という字(旁)であります。糸へんに子という字はありませんが、子偏 に系で「孫」ですね。
「子孫」、そして右下に「=」の字が書かれるのは重なる字を略して使います。つまり「子々孫々」と彫られていると思われます。この印の使い手は、かなりの年配者で、末代まで子孫の繁栄や幸せを祈念して作ったと想像いたします。
左の印の枠の線が途切れたり欠けたりして見えるのは、長期間使われて摩耗・欠損したわけではなく、わざと使い古した「古印」のテイストを醸すための常套の技法で、せっかく奇麗に彫り上げても、外枠の部分は仕上げの段階で、乱暴に大胆に、欠けたように印刀で傷つけるのです。
蛇足ながら、先日彫った関防印がこれ、「真楽」という二文字です。自分も相手も、すべての人がうるおう楽しみというような意味になります。 印刀で指にタコが出来て痛みます。左手はたまに手許が狂って刀先が刺さっております。字は「楽」ですが、彫る方は「苦」もあり痛いものでもあります。
論語の「知の者は・・略・・・楽の者に如かず」という一節を書いた条幅に押すために急遽彫りました。自分で言うのも何ですが、作品が出来てから、書の内容に合わせて関防印を彫る、というなかなかないトリッキーな離れ業ですな(笑)
こちらは「愈楽」という印で、上の書と一緒に鍼灸院を経営する友人にプレゼントです。「愈」は動用字で、「愉」の異体字であります。
本日もなんの役にも立たないお題、拙文を見ていただき誠に恐縮であります。