すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【日本サッカー界】「バックパス症候群」という病

2017-12-09 06:27:38 | サッカー戦術論
ボールを大切にする「いいプレイ」の認識を変えろ

 ゆうべのなでしこジャパンの試合を見て、日本サッカー界が抱える問題の大きさに頭を抱え込み、つい気になって夜中に目が覚めてしまった。で、この原稿を書いている。お題は、バックパスの是非についてである。

 その必然性もないのにバックパスが異常に多いなでしこジャパンが典型だが、日本サッカー界は女子だけでなく男子もまったく同じ「病巣」を抱えている。男子はハリルが縦に速いサッカーを注入してムダなバックパスはめっきり減ったが、それでもアジア予選が終わればまたぞろバックパス復活の兆しが見えてきた。深刻な問題である。

 日本サッカーの歴史を振り返れば、まだ日本人選手に技術がなかった数十年前。とにかくタテにボールを放り込み、味方に競り合わせるアバウトな縦ポン・サッカーはふつうにあった。だが日本人がすっかり技術を身につけ時代が変わるや、丁寧にパスをつないで「意図のあるサッカー」をやろう、という流れに日本はなった。

 つまり目をつむってとにかくタテにロングボールを放り込む、運まかせな「意図のないサッカー」はもうやめよう、って話だ。で、日本はショートパスを駆使する精緻なパスサッカーの聖地として、アジアでは確固たる地位を築いた。だが、同時に失ったものがある。

 それはボールを大切にし、失わないようにしようとするばかりに、チャレンジ精神がなくなったことだ。

 ちょっと苦しい体勢になれば、バックパスに逃げればいいーー。

 前にボールを運べなくなるが、それでもボールを失うよりはいいーー。

 ボールを奪ったら、まずいったんバックパスして「ひと休み」しよう。それでタメを作って遅攻をかければいいーー。

 よくいえば何度でもバックパスを繰り返し、後ろからビルドアップしようとした一時期のバルセロナ・スタイルの劣化バージョンだ。

 ハリルに言わせれば「ボールポゼッション病」の成れの果てだ、とでも表現するだろうか?

技術がついた今の日本人にはできるはずだが……

 日本人は、まだ技術がなかったゆえ「そうするしかなかった」アバウトな縦ポン・サッカーの時代とは、もう違う。ボールを奪ったらタテに正確な「意図のある」長いパスをしっかりつけてカウンター速攻ができるはずだ。時代はそんなふうに1回転している。だが、そうしない。ややもすると相変わらずの遅攻頼りになる。

 前回の記事でも触れたが、日本人はとにかくボールを大事に、ボールを大事に、という頑ななパスサッカー信仰が強いあまり、どうしても成功率が高いショートパス偏重になる。ヨーロッパ人のように正確なロングボールを自在に操る「大きなサッカー」ができない。

 昔のようにアバウトなロングボールを放り込むのでなく、技術がついた今では前線の選手の足元へ正確な長いパスを付けられるはずなのに、トライしない。

 具体的にいえば、ボールを保持した左SBから、前のスペース目がけて走りこむ逆サイドの右WGに向け、フィールドをななめに横切るダイアゴナルな長いサイドチェンジのボールを出すようなプレイだ。

 いや、それでもハリルが来日し「タテに速いサッカー」を布教したおかげで日本人はずいぶん変わった。男子代表でいえば、特に吉田や森重、井手口あたりは本当に正確で鋭いロングパスを出すようになった。今の日本人はそれをやるだけの技術はあるのだから、あとは「やろうとする意思」をもつかどうかの問題なのだ。

 ところがややもすると、また安易な方向に流れてしまう。男子代表でいえばアジア予選が終わるや、めっきりまたバックパスに逃げることが多くなった。かたや、なでしこジャパンもバックパスの花盛りだ。

 ボールを持ったら、まず前を向こうとしない。バックパスは楽だから、ついバックパスに逃げてしまう。

 日本人はそんな、ボールを病的に大事にする偏ったパスサッカー信仰から抜け出せるかどうか? 成功率が高いショートパス偏重の「小さいサッカー」でなく、正確なロングパスを自在に操る「大きなサッカー」へと脱皮できるかどうか?

 日本のサッカーが世界で勝てるようになるためには、まずそこをクリアする必要がある。

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